第3話 庇われた人間は、助かったことを喜べなかった
誰もが分かっていた。
ISFJが誰かを庇って死んだことは。
でも――
誰を庇ったのかだけが、分からなかった。
それが、空気を腐らせていた。
「……ねえ」
沈黙を破ったのは、ENFPだった。
「このままじゃ、何も進まないと思うんだけど」
声は明るさを装っている。
でも、目が泳いでいた。
「誰か、心当たりない?
追われてた人、とか……」
誰も答えない。
答えた瞬間、
自分が“生き残った理由”を引き受けることになる。
INFJが、静かに口を開いた。
「……分かる」
全員の視線が集まる。
「ISFJは、
“自分より守る価値がある存在”を、選んだ」
嫌な言い方だった。
事実だけを切り取った、残酷な表現。
「それが誰かも……
たぶん、分かる」
喉が鳴る音がした。
誰かが、息を呑んだ。
「昨日、森の中で――」
INFJは言葉を選ぶように、一拍置く。
「INFPが、泣いていた」
空気が、はっきりと凍った。
「追われてたわけじゃない。
でも……能力のせいで」
INFPの肩が、小さく跳ねた。
「自分の“信念”が、
周囲を拒絶し始めてた」
――信念実体化。
守りの力が強すぎるがゆえに、
近づくものを無差別に弾く。
「ISFJは、それを止めようとした。
“守る側”に回った」
誰も、INFPを見なかった。
見たら、何かが決定的に壊れる気がしたから。
「……違う」
震える声で、INFPが言った。
「私は……頼んでない」
その言葉が、
さらに深く突き刺さる。
「守ってなんて、
誰にも頼んでない……!」
感情が、溢れ出す。
「私はただ……
ここにいたくなかっただけなのに……」
ENFJが、反射的に一歩前に出る。
「大丈夫。
君のせいじゃない」
だが、その言葉は――
今はいらなかった。
「違う!」
INFPは叫んだ。
「私のせいじゃないなら、
じゃあ誰のせいなの!?」
誰も答えられない。
神のせいか。
性格のせいか。
それとも――
生き残った自分のせいか。
ISFJは、何も言わない。
もう、言えない。
INFJは視線を落とした。
「……あの人は、
“自分が死んでも後悔しない未来”を選んだ」
それが、
INFPを一番傷つけた。
「そんなの……」
INFPは膝をつく。
「そんな選択、
他人にさせるなよ……」
涙が、砂に落ちる。
誰も近づけなかった。
守られた人間は、
助かったことを喜べない。
庇った人間は、
もう、謝ることすらできない。
そして集団は、
確実に“線”を引いた。
――庇われる側と、
庇われない側。
俺は、静かに考える。
この島で一番危険なのは、
強いやつじゃない。
優しさを、
責任に変えてしまう構造だ。
そしてそれを、
神は最初から知っていた。
空を見上げる。
神は、何も言わない。
それが、
答えだった。
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