第49話 ゴーレム 其の八 三人組

 大樹が捕えた男と、SITが捕えた男、四人は、捜査本部のある千代田中央署に送られた。

 大樹が捕えた男は、湯口悟ゆぐちさとる・住所・職業不詳、四十四歳で、拉致事件の首謀者だった。他の四人は湯口が募集した闇バイトに応募した二十代の連中である。四人は湯口の命令されるまま動いていた。

 康太、由衣、大樹、山県刑事らがマジックミラーから覗く中、米田刑事が湯口の取り調べを始めた。

「お前は、福光さんを殺害する目的で拉致した」

「違う! ガキをやるつもりなかった」

「福光夫妻、ヤマモト、杉浦、村田、遠藤、全部お前がやった! 直接手を出さないまでもな」

「俺はやってねーし、指示もしてねー!」

 ガキと言われた大樹は、ふくれっ面を康太に向けた。

「最初の返答だけは嘘じゃないと思います」

 康太が笑みを浮かべた。

「そうか! 何かわけがありそうだな」

「美少年趣味の奴に頼まれたのかも」

 由衣が冗談を放ってニッと白い歯を見せると、大樹は口を尖らせた。

「少年じゃないから!」

 例の如く大樹を茶化す由衣に康太は苦笑する。同時に犯人のイラストを清書する折、見守っている大樹に向ける元上司・行動分析課・課長・諸畑警視長の卑わいな目付きを思い出した。

 その後、湯口は完全黙秘した。

「他に仲間がいるはずだ。湯口の周辺を徹底的に洗ってくれ」

 康太が鋭い視線を投げると、山県刑事は大きく頷いた。

「承知した」


 湯口は東京都あきる野市にある児童養護施設で育ったが、強盗致傷の前歴があった。十七歳のとき、一人暮らしの老人宅に忍び込み軽傷を負わせて逃走、十日後に逮捕されている。

 康太は、山県刑事と柿崎刑事と共に、養護施設に出向き、当時から働いている女性職員の話を聞いた。

 職員は一枚の写真を出した。湯口が十七歳の時、同じ歳の鈴掛明弥すずかけあきや渕上洋介ふちがみようすけと一緒に撮られたものだ。

 湯口は婚外子で、五歳のとき母親が失跡・当施設入所、十七歳のとき強盗傷害で逮捕・少年院収容・当施設退所。

 鈴掛は十歳のとき両親が交通事故死、近い親戚がなく当施設入所、同年養子縁組成立、同年性的虐待発覚・養子縁組解消・再入所、十八歳で当施設退所。 

 渕上は、推定年齢三歳のとき、あきる野市内で保護・当施設入所、十八歳で当施設退所であった。

「湯口君と渕上君と鈴掛君は、いつも一緒でとても仲が良かったです。でも、湯口君があんなことして」

 職員が写真を指差しながら話すと、柿崎刑事が感想を口にした。

「湯口は普通、渕上君は不細工、鈴掛君は飛びっきりの美少年ですね」

「ええ、鈴掛君は当時から評判でした。今は、首都大学医学部の准教授です。湯口君は酷かったけど、鈴掛君と渕上君は、成績はいつもトップクラス。同じ高校に通っていました」

「へーっ! こりゃ凄い」

「対して湯口は、少年院に行ってハングレの頭目とはなー! で、渕上君は?」

 山県刑事が質すと、職員は沈んだ顔になった。

「渕上君は退所したばかり頃に失跡して、以後、消息不明なんです」

 山県刑事は柿崎刑事に調査しろとばかりに目配せした。

 康太は一枚の写真を出した。

「諸畑という警察官です。見覚えはありますか?」

 職員はしばらくじっと見て顔を上げた。

「あっ! はい、この方、湯口君の捜査で施設に来て、仲が良かった渕上君と鈴掛君に事情聴取しました。あたしも同席して」

 諸畑は当時、警察庁生活安全局に所属し、西東京地区の犯罪予防担当だった。


 康太は自分と遠藤の元上司、諸畑も疑っていた。遠藤の様に容易に尻尾は出さないが、福光夫妻殺害事件の捜査本部が立ち上がった当時、管理官を務めていた。

 諸畑は、死亡した遠藤に、それとなく湯口の犯行を隠蔽させていた節があった。三人組の一人、美少年の鈴掛に目を付け、何らかのトラブルで渕上が死亡した。その絡みで湯口に弱みを握られ、捜査情報を洩らしていた可能性がある。拉致事件も、自分が流した嘘の情報を、諸畑が湯口に伝え、行動を起こしたのかも知れない。

 湯口の逮捕により発覚を恐れた諸畑が、何らかの行動を起こすと康太は考え、神奈川県警の前田刑事、白木刑事らに諸畑を監視させた。村田の自殺偽装を見抜けなかった神奈川県警の捜査員らに名誉挽回のチャンスを与える意図もあった。


 休日、諸畑は実家がある秦野市へ、川崎の自宅マンションから車で向かった。農業を営んでいた両親は介護施設に入居、現在は空き家だ。但し、諸畑はときどき帰って維持管理をしていた。

 後を追って来た前田刑事ら四人は、敷地を囲む木々の陰から雑木林に入る諸畑を見つけ、白木刑事ら二人が別角度から撮影を開始した。

 諸畑は一心不乱にスコップで地面を掘り起こしていた。

「バカな! ない」

 諸畑は大きく首を傾げ、スコップを放り投げた。

 

 翌朝、康太は警察庁の廊下で諸畑と出会った。

「おはようございます」

 康太が挨拶すると、諸畑は探るような目付きを向けた。

「湯口は黙秘しているそうだな」

「はい、なかなか口を割りません」

「お前、疲れているようだ。管理官は荷が重いだろ? 地方教養課に移動させてやるぞ」

 事実上の左遷である。

「はい、今、別方向から捜査中なのでけりが付けば」

「ほう…… それは?」

「申し上げられません。監察の報告義務が生じました」

 諸畑の表情が一瞬固まる。

「たっ、対象は?」

「お答えできません。たとえ長官に問われたとしても」

 康太は監察局に白木刑事らが撮った諸畑の動画を提出していた。


 午後、康太は、匿名通報扱いで地検特捜部に接触した。捜査本部を指揮する警視庁の一課長でも、警察庁の行動分析課の課長、諸畑警視長には直接手出しができない。そこで地検を盾にした。

 地面を深く掘っている諸畑が動画を、康太は特捜検事に見せ、児童養護施設訪問から現在までの把握している言動を全て伝えた。

 検事は康太を見据えた。

「地裁は鑑識投入の令状を出す。だが、何も出なかった場合、覚悟はできているな?」

「はい、もとより」


 康太、前田刑事、白木刑事ら、祈るような目付きの諸畑が見守る中、雑木林に鑑識が入った。裁判所から令状が出ているので、諸畑は拒否できない。

 鑑識官の一人が声を上げた。

「脂肪酸とリン酸濃度が特異です。人体が埋まっていた可能性が高いです」

 続いて、土砂をふるいにかけていた別の鑑識官が大声を上げた。

「骨片がありました!」

 白木刑事が辺りを見回す。

「諸畑警視長がいません」

「しまった!」

 康太が声を張り上げ、反射的に空き家の方に顔を向けると同時に銃声が響く。現場に詰めていた一同は、一斉に空き家に駆け込んだ。

 康太と前田刑事らは呆然と立ち尽くし、白木刑事は土間に膝を落とす。

 血と脳症が点々と飛び散った座敷に、拳銃を握る諸畑がうつ伏せに倒れ、破砕した側頭部から赤と白の粘性物質が溢れ出ていた。


 諸畑が自殺に使用した拳銃は南部十四年式だった。諸畑がどうやって入手したか現時点では不明。隠し持って日頃より手入れをしていたのであろう。

 鑑識が採取した骨片のDNA鑑定が実施された。児童養護施設に入所時より、渕上が所有していたゴーレムのヌイグルミから採取した体毛のDNAと、一致した。骨片は渕上洋介、当時十八歳のものと判明した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る