第47話 ゴーレム 其の六 吹き荒れる春雪

 翌日夕刻、大樹の自宅アパートにて、由衣と大樹を前に康太が口を開いた。

「大樹君に伝えなきゃならんことがある」

 大樹は大きく目を開き、「なに?」由衣が身を乗り出す。

「つくば市のあの場所で白骨体が見つかった。頭部が陥没していて他殺に間違いない。科警研で複顔したところ、大樹君のイラストとそっくりだった」

 大樹は両手を握り締め唇を震わせた。由衣がそっと背後から抱き締める。

「お兄ちゃん、それって本当の犯人がいるってことよね?」

「ああ、杉浦を殺害した村田も何者かに口封じされたようだ。奴らは使い捨ての駒にすぎまい」

 呼び鈴が鳴って大樹が玄関ドアを開けると、米田刑事と青山刑事が顔を覗かせた。

 由衣が小声で愚痴る。

「また、来やがった」


 席に着いた青山刑事は意気消沈した顔を見せた。

「例の盗難車を調べました。排気口から伸びたホースに、村田の指紋と皮脂が検出されました。村田の自殺を裏付ける証拠になります」

「写真、ありますか?」

 大樹が尋ねると、青山刑事はUSBメモリを差し出した。

「ここに」

 大樹はパソコンで一通り目を通し、首を傾げた。

「この指紋、力の掛かり方が変です。普通に握っていたら、指の線がホースの丸みに沿って湾曲するはず。でも、これは押し当てた感じ」

「やっぱり自殺偽装ですか!」

 青山刑事が目を輝かせ、米田刑事が舌を巻いた。

「福光さんは凄いですな! 将来、科警研に入れば日本の科学捜査は盤石だ」

 由衣が割って入る。

「ダメ! 大樹は外科医を目指しているの」

 大樹が困ったように首を傾げ、康太は苦笑した。

「由衣、大樹君は今、必死なんだから余計なことは言うな」

「そうでした。仇討ちの最中だもんね」

 康太は米田刑事と青山刑事を見据えた。

「大樹君の指摘を科捜研に伝え、再検証を頼んでくれ」

 米田刑事は大きく頷き、青山刑事に顔を向けた。

「手を尽くしますぞ。…… おい、行くぞ」

「はい」


 米田刑事と青山刑事が急ぎアパートを出て行った後、康太の携帯が鳴った。

「…… なんだと! …… すぐ行く」

 康太は憮然として携帯を切った。

「どうしたの?」

 由衣が質すと、康太は舌打ちした。

「目を付けていた奴が失跡した」

「えーっ! 裏切者が逃げちゃったんだ。もう手掛かりない?」

「お前、飯塚さんの家に行った帰り、起きていたんだろ!」

「えへへ、バレたか!」

「お前、勘が良すぎる」

「だって、お兄ちゃんの妹だもん。で、大丈夫?」

「すぐに確保してやるさ」

 と言い残して康太は、アパートを後にした。


 康太の元同僚で、埼玉県警で管理官を務める遠藤警視が失跡した。当日、遠藤は、警察庁の特別監査で聴取される予定だった。

 翌朝、遠藤の死体が、東京都世田谷区の多摩川の河川敷で、土手をジョギング中の人が発見した。検視では外傷はなく死因は不明、遺体は司法解剖に回された。

 司法解剖が実施された。身体に注射痕など何ら痕跡はなく、体内から毒物・薬物は検出されなかった。当面、死因は不詳、必要時に応じて後日再検査とされ、遺体は冷却保存された。

 遠藤は三十三歳で健康そのもの。血圧も心電図も正常で病死は考えにくい。自殺の動機は高く、口封じの為の他殺も想定され、警視庁は捜査継続を決定した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る