第28話 中華料理店 其の三 健志郎
「じゃあ、友美さんとお兄さんは血が繫がってないんだ」
「そうよ。友美のお父さん、養子解消しちゃえばいいのに」
日曜日、由衣と大樹が、昼食後のひと時を大樹のアパートで過ごしていると、大樹の携帯が鳴った。
「ご無沙汰しています」
「……」
「はい、大丈夫です。お待ちしています」
「誰から?」
「養子解消の件等でお世話になった弁護士の名和さん。今日は大宮に用事があって来ている。三時に、こっちに寄ることになった」
「へーっ! あたしも一緒にいていい?」
「うん、もちろん」
伯母が亡くなって家庭環境が最悪になった大樹は、その頃から何かと世話になっており、彼がいなかったら今の大樹は存在しない。
穏やかな顔立ちの中肉中背の男だが柔道五段で、大樹が柔道を習い始めるきっかけになった。
健志郎と由衣が互いに自己紹介をし、大樹が近況報告をした。
健志郎は由衣と大樹を前にして満面の笑みを浮かべた
「よかったなー、こんなキレイな彼女ができて! 由衣さん、大機君の言動には我々が理解できないことが多くある。でも、悪気はまったくないから。気づいていると思うが、彼はその……」
「サヴァンですよね。目に映った光景をそのまま記憶するなど驚異的な能力を持っています。素直で優しく正義感が強いけど、ガキっぽくて天然で社会常識に欠けるところがあって、あたしは、彼に期待する”普通”の基準を調整しています。あと、人に変なこと言ってしまうことがよくあるので、誤解されないようにフォローしています」
「由衣さんは、よく解っているね。一安心だ」
健志郎は、得意そうな由衣と、ふくれっ面の大樹を眺めながら満足そうにコーヒーに口をつけた。
由衣が姿勢を正し、キリッとした顔を健志郎に向けた。
「先生、ご相談したいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「なんだい?」
「養子縁組解消について」
中華料理店を営む友人の母親が階段から転落死した事件があり、義理の兄の犯行と大樹が見抜き、その後、姿を消して警察が追っていることを、由衣はポイントを押さえて説明した。
聞き終えた健志郎は何度も頷いた。
「通常、養父母と養子の同意が必要だが、そういう状況なら解消は容易だ。よかったら僕が引き受けよう」
「あの…… でも」
「謝礼はいらないよ」
「ほんとにいいんですか?」
「こっちの用事のついでにやってしまうから。それにしても大樹君の観察眼は凄いなー!」
「先生、今回だけじゃないんです」
由衣は今まで大樹が活躍して解決に導いた事件を、かいつまんで語った。
「そうか…… よい環境に変わって外に注意を払う余裕ができたんだな。特に由衣さんの存在が大きい。でも大機君、あまり首を突っ込むんじゃないぞ。ただでさえ君は人の嫉妬を買い易いのだから」
健志郎が大樹を心配そうに見詰めると、大樹は首を捻った。
「僕なんかに?」
「君は確かに悲惨な経験をした。だが、今はどうだい? 良い人達に囲まれ、医師を目指して日々
「絶世の美女が彼女だし、自分は美少年だし」
と由衣が口を挟むと、大樹は不満げな顔を見せた。
「僕は少年ですか?」
「ごめん、青年」
二人のやり取りに健志郎は相好を崩すも、注意を促した。
「ともかく深入りせず、由衣さんのお兄さんや僕に相談するんだよ」
「はい、ありがとうございます」
由衣と大樹は頭を下げた。
「ところで先生、ご結婚されているのですね。お一人かと思っていました」
左手の指輪を目にした由衣が確認すると、健四郎は少々顔を赤くした。
「三日前に籍を入れたけど式は挙げてない。大樹君、連絡せずに済まん」
「どういう方ですか?」
大樹が聞くと、健四郎は照れくさそうに頭を掻いた。
「大学の同期生で三十九歳のバツイチ、弁護士になって十年、夫婦で義父の弁護士事務所に所属している。だから妻には頭が上がらない」
由衣と大樹は顔を見合わせて、「クスッ」と洩らした。
その日のうちに健志郎は、由衣と大樹と一緒に宮川家に訪問し、養子解消の手続きを進める了承を得た。
義母の殺害容疑で指名手配中であり、姿を消した状況を踏まえ、一週間後、地裁は友美の父親と慎一の養子解消を認めた。父親は当日、市役所で慎一の転籍手続きを終えた。
翌々日、さいたま市の大和田公園の森の中に死体があるとの通報があった。
警察が駆け付けると、木漏れ日が照らす茫々と茂る下草に埋もれ、男がうつ伏せに倒れていた。頭頂部は完全につぶれ、辺りには脳漿が飛び散っていた。
死体は、手配中の
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