第15話 BとG 其の四 アナフィラキシーショック
大村の死因は鈍的外傷からの広範な組織の挫滅・挫傷による大量の細胞外液喪失、低酸素血症、心機能低下等による外傷性ショック死とされた。
あの頑健な大村が逃げもせず、抵抗もせず、やられ放題暴行された。どの傷も浅く大村の性的嗜好が疑われたが、証言をする者は皆無で裏付けもない。
康太は、大樹の観察力に期待して現場写真を見て貰うことにし、新宿署に来て貰った。由衣も、発達障害気味の大樹の保護者だと屁理屈をこね、強引に着いて来た。
大樹は別荘のデッキの床を映した写真に目を留めた。
「ダンゴムシがサツマイモの天ぷらにたくさん群がっています」
「ダンゴムシとサツマイモの天ぷらがどうしたんだ?」
一緒に見ていた柿崎刑事が口を尖らせる。
「大村は甲殻類アレルギーです」
康太が声を上げた。
「アナフィラキシーショックか!? だが、胃の内容物に甲殻類はなかったなー」
「ケツの穴と金玉にも傷があったから”アナルフルチンショック”じゃねえか?」
柿崎刑事が下品な冗談を放ち、周囲が「ブッ」と吹き出し、品のない言動が大嫌いな由衣は、今にも毒づく様子を見せる。
そこで大樹はすかさず意見を述べた。
「エビと同じ油で揚げても発症する可能性はあります。抗体を調べるべきです」
大村の遺体の司法解剖が再度実施されることになった。
人目をはばからず変顔してふざけ合う由衣と大樹。寛太が時々見せるフレーメン反応の真似をしている。康太は、ふと思い至った。
(こいつらガキだ…… 大村がアナフィラキシーショックを発症していたら子供でも暴行できる。別荘を借りて拘束器具と高画質ビデオカメラを用意した。そこまで準備して誘拐を断念。大村の執拗な性格から代わりを求めたはず。ならば、一人でも対処できる子供)
「大樹君、もう一つ見てもらいたいものがあるのだが」
「はい」
それは、管理棟に設置された入り口付近を映す防犯カメラの映像だ。当然このカメラと、別荘近辺の防犯カメラは確認済みである。
康太と捜査員達が見守る中、パソコンを操作している大樹が声を上げた。
「ヤマガラが五羽、オオルリが三羽、アカゲラが二羽、一斉に飛び立ちました」
大村の死亡推定時刻の約五時間前、十三時四分の映像で、画面の端の遠景、貸別荘を取り囲む林の中である。
「ヤマガラとかアカゲラとか鳥だろ? それがどうしたんだ?」
一緒に見ていた柿崎刑事が首を捻ると、大樹は説明を加えた。
「何かが林の中を突っ走り、驚いて飛び上がったのだと思います。手前の藪で姿が見えないので子供か動物。狸などの動物は、鳥達にとってあまり脅威ではなく、おそらく子供です。それも鳥達の驚き様から二人以上だと思います」
康太が笑みをごぼした。
「なるほど。この別荘地は周囲のどこからでも出入りできる。周辺の防犯カメラを子供も視野に入れて再度確認しよう」
「了解した」
山県刑事が立ち上がり、柿崎刑事と一緒に部屋を出て行った。
山梨県警の捜査員が別荘周辺の防犯カメラを再確認した。
結果、近くのコンビニの防犯カメラに息を切らせて入ってきた少年と少女が確認された。撮影日時は大村の死亡推定日の十三時十六分。
二人は程なく見つかった、
一方、大村の遺体に再度司法解剖が実施された。死後五日間高温状態で放置され、腐敗はかなり進んでいたが、心臓と大動脈の血栓、肺の充血、内臓の虚血が限界寸前で認められ、甲殻類アレルゲンに対する抗体が検出された。但し、胃の内容物には甲殻類は検出されなかった。
大村はアナフィラキシーショックを発症し、抵抗できない状態で暴行を加えられた。死因は両者による複合的なものとされた。
かの少年と少女に対し、捜査員が各家庭を訪問し、それぞれ話を聞いた。二人は、別荘地に入ったことはなく、大村は見たこともないと答えた。捜査本部は範囲を広げ、防犯カメラの確認と目撃情報の収集を続けた。
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