2.パラレルワールド
「八木原駅~八木原駅~」
電車のアナウンスの音で目が覚めた。
どうやら寝ていたみたいだった。
「って、もう八木原じゃん!」
急いで開いていた電車の扉から出る。
その間、窓の中の勝彦はいつも通り、勝彦の動きを真似していた。
やはりあれは夢であり、現実ではなかったのだ。
「よかった、夢で」
安堵するのも束の間、次の問題を勝彦は解決しに向かう。
優菜の生存確認。
勝彦は八木原駅のホームから出て、周囲を見渡すが、優菜の姿は見えなかった。
八木原駅は八木原駅から見て手前に駐車場、その奥に駅でT字路に分かれた道路があり、左には駐輪上、右には住宅地が広がっていた。
徒歩二十分の距離ならもうついているはずだが、優菜はそこにはいなかった。
心配になってきた勝彦は優菜に話をかける。
またしても着信音が響き渡るが、今回は着信音は二重に聞こえず、しっかり聞こえた。
さっきより落ち着いているのだろう。
数分鳴り続けた着信音が鳴り止むと、環境音が聞こえた。
「優菜か?今どこだ?」
「それはこっちの話!ずっと八木原駅で待ってるんだけど、まだ?」
「え?」
再び周囲を確認するが、やはり優菜の姿はない。
「いないぞ、どこにいるんだよ?」
「え、八木原駅の前だけど?」
「今何が見えてる?」
勝彦が優菜に問う。
「えっとね、八木原駅の看板?」
「……俺もだ」
やはり、過去の人物には会えないのかと心底落ち込む勝彦だったが、その瞬間。
「あ、待って!あれ勝彦じゃね?ほら!道路のところに私いるよ!」
優菜が勝彦を見つけたようだった。
「どこだ!」
首を振りながら道路から駅までの周りを見渡すが優菜の姿、というより人一人周りにはいなかった。
時刻は七時ということもあって周りは暗くなり始めており、人がいないのはわかるが、家を出てから人を見ていなかった。
普通は電車に乗りさえすれば人を一人は見るはずだ。
だが人を見ないどころか生きている虫や動物も見ていない。
「どういうことだ……?お前には何が見えてんだよ、優菜……」
「え、だって、私には見えるよ。こっちに手振ってる勝彦が」
「は……?」
「こっち見てさ、すごく笑顔だよ?」
すごく不気味だった。
まさかと思い、勝彦は優菜に問う。
「そいつ、どんな感じで笑ってる?」
「すんごい笑っててね、唇の端が鼻の高さまで届くくらいって、口元動いてないじゃん、じゃああれ誰なんだろう?」
その瞬間、電話から砂嵐の音が聞こえ、電話が切れた。
「おい!優菜!返事しろよ!優菜!クッソ!!」
どうすれば優菜に会えるのか、思考を巡らせる。
思考を巡らせても無駄だ。
なぜなら過去に行くなんてことはどう考えてもできないことなのだ。
「クッソ!クッソ!どうすれば!」
ふと、先ほどの窓の中の自分を思い出す。
「優菜に見えていた俺は窓の中の自分だとしたら、もしかしたら!」
急いで八木原駅のホームの中に入る。
すると先ほど乗った電車がまだ止まっていた。
「なんで出発しないんだ?」
そんなことはいい。
勝彦は電車に乗り込み、窓を見る。
そこにはいるはずの勝彦が写っていなかった。
「ここはパラレルワールドかよ!」
つっこみながらも窓に手を伸ばすと、手は窓の中に入り、窓には入った手が写っていた。
「どういうことだよっ!!」
勢いよく、体ごと窓に飛び込む。
窓から思いっきり放り込まれて電車の座席を超え、固い電車の床に頭を打ち付け、鈍い音が周りに広がった。
「いてて……」
勝彦が立ち上がり、頭をなでていると、後ろから肩を叩かれる。
「あ、あの、大丈夫ですか?」
家に出てから初めての人だった。
「人だ……」
思わず声が出てしまった。
だが周りを見渡すが、その人一人しかいなかった。
「まもなく、ドアが閉まります」
電車のアナウンスが聞こえた。
「やっべ!」
勝彦は急いで初めて会った人の手を引き、電車を降りる。
「ちょ!私、ここで降りないです!」
だがもうすでに時遅し、電車のドアは閉まり、出発してしまった。
「あぁ~!」
彼女は膝から崩れ落ち、去っていく電車に手を伸ばす。
なんだが気まずかった。
「えっと、その、ごめんなさい……」
「…まぁ次の電車使えばいいか」
彼女は勝彦に手を伸ばし、握手を要求してくる。
よく顔を見るとその顔はどこかで見たことがある顔をしていた。
「優菜!!」
風条優菜、本人だった。
「ん?なんで私の名前知ってるの?」
警戒心が増したのか、優菜は伸ばしていた手を下げ、距離をとろうとしていた。
「待って!怪しいものじゃない!人間違いだ!人間違いだったんだけど、名前が同じだったみたい!」
「あー、そういうことね!じゃあ、改めて、私は風条優菜!よろしくね!」
「……よろしくな!」
勝彦は少し考えて一つの目標を決めた。
この世界でゆっくり暮らそうと。
幼馴染が好きな俺 金津義満 @kikkouyutui
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