【完結】第5話:困惑する国家
会議室は静かだった。
外界の喧騒とは無関係に、分厚い壁に囲まれた部屋で、数名の幹部が着席している。机の上には資料が並び、端末の画面には簡潔な報告書が表示されていた。
祝意も、緊張もない。
あるのは、処理結果の確認だけだった。
技術部門の幹部が立ち上がる。
「報告します」
声は淡々としていた。
「外部ネットワーク上に存在していた非公式領域を確認しました。管理主体が不明瞭で、制御不能な状態でした」
幹部は画面を操作し、数値を示す。
「当該領域には、我が国に関する未承認情報が流通していました。体制維持上、看過できないと判断しました」
誰も異議を唱えない。
判断は共有されていた。
「我々は、異物を除去しただけです」
技術幹部はそう言い切った。
「制御不能な領域が存在していたため、削除しました。特別な作戦ではありません。通常の是正措置です」
別の幹部が資料をめくる。
「しかし、外部から多数の通信が届いています」
感謝。
称賛。
表彰の打診。
文字にすると、どれも理解しがたい内容だった。
「理由が分かりません」
技術幹部は正直に言った。
「我々は秩序を回復しただけです。
あの領域は、最初から存在してはいけないものでした」
沈黙が流れる。
誰も「善行」という言葉を口にしなかった。
誰も「功績」という概念を持ち出さなかった。
やがて、最も年長の幹部が静かに言った。
「理解できないのは、感謝ではない」
一同が顔を上げる。
「世界は、なぜ今までこれを放置していたのですか?」
その問いに、答えはなかった。
闇を闇として許容し、
交渉し、共存し、管理しようとする世界。
彼らには、それが異常に思えた。
会議はそれ以上、続かなかった。
処理は完了している。議論する余地はない。
外では世界が祝っていた。
内では、誰も意味を理解していなかった。
その国は、最後まで知らなかった。
闇を消すことが、
世界では「善」と呼ばれる行為だということを。
闇を知らない国 Omote裏misatO @lucky3005
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます