第4話:世界の祝祭
闇が消えた翌日、世界はそれを「事件」と呼んだ。
正確には、世界がそれに気づいた日だ。
表のネットワークに、言葉が溢れ始めた。
速報、特集、解説、識者のコメント。
ダークウェブという単語が、これほど堂々と見出しに躍るのは初めてのことだった。
メディアは即座に結論を出した。
――史上最大のサイバー浄化。
犯罪ネットワークの壊滅。
密売ルートの消失。
違法取引の終焉。
映像のないニュースが、興奮気味に語られる。
闇は可視化され、数値化され、整理された。
人権団体は、言葉を選びながら声明を出した。
手法には問題がある。
法的手続きを欠いている。
透明性もない。
それでも、結果については否定できない。
被害者は減り、犯罪は止まった。
評価は、慎重に、しかし確実に積み上がっていった。
国連は公式声明を発表した。
「国際社会の安全に対する重大な貢献」
「前例のない成果」
「新たなサイバー秩序の可能性」
声明文は整っていた。
誰も責任を負わず、誰も反対しない、完璧な文章だった。
世界は、称賛した。
国家の名前が明かされるたびに、驚きと拍手が起こる。
制裁対象国。
問題児。
時代遅れ。
その国が、闇を終わらせた。
皮肉はすぐに消費され、物語に変換された。
ニュースは英雄を欲しがり、世界は希望を欲しがっていた。
ノーベル賞の候補に、名前が挙がった。
平和賞か、あるいは特別賞か。
学者たちが真剣に議論する。
表彰の打診が送られ、感謝状が準備された。
招待状には、丁寧な敬意と期待が詰め込まれていた。
だが、返事はなかった。
公式チャンネルは沈黙したままだった。
祝辞に対する反応も、否定も、受諾もない。
沈黙は、無関心ではなかった。
理解できていない沈黙だった。
世界が歓声を上げる一方で、
当の国家は、何一つ変わらなかった。
祝祭の輪の外で、
ただ静かに、困惑していた。
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