第4章 first task【平等】

こいつ、どうかしてる。


背後からパチパチと音が聞こえるのは、目から電流が流れているという事だろうか。


さっきまで抱きしめられて安堵していたのに。

露木の鼓動を感じる体温は暖かいのに、氷を素手で触っているようだ。離れたい。


「あぁ、ばっちり柏木さんのお顔が映っていますね。」


再生ボタンが押されると、目を背けたくなる行為が映し出された。


『リカは、ホントに可愛いね。ずっと一緒にいようね』


柏木の卑劣な笑い声が自宅の狭いリビングに響いた。


甘い言葉とは裏腹に、柏木が女性を追い詰める。俺は目をギュッと瞑り、映像からの視覚情報を遮断した。


「わかったから…やめてくれ」


露木は俺の震える一声を聞き切ってから、ゆっくりと動画の停止ボタンを押した。


「お分かりいただけたんですね?」


酷く整った顔で、口角を不自然に高くあげた露木が俺の顔を覗き込む。


「だからといって…柏木がどんなに酷いやつでも、こいつを選ぶのは嫌だ。不公平だろ。

他の奴らだって何をしてるかなんてわからないし」


「たしかに御学友の人生を不運にすることは

胸が痛みます。」


露木はスマートフォンをソファに置くと、両手で俺の手を握り指を絡めた。


「ですが…被害に合われた女性はどうなりますか?未来、柏木様と出会う女性は?泣き寝入りでしょうか?」


「…っ…女の子が告発出来るようにするとか」


「はい、柏木様を選んでいただければ!

そのパターンもありえますね。あ、その状況については下請けにお願いしているのでご希望があれば言うだけ言ってみますよ」


「だから、根本的にこの制度がおかしいだろ。

柏木だって、これから必ず罰があたる!今ここで俺らが決めることは…!!」


俺はハッとして、これ以上の言葉を出すのを辞めた。


「はい。その罰を管理するのが星様のお仕事です」


悔しい。なんで俺が!?

ただ鱗が剥がれたくらいで青龍なんて俺自身が認めてない。


映像を見ればそれは柏木は酷い奴だよ。

だからってなんで俺が…知りたくなかった。

知らなければ…俺は…。


「龍は基本的に位の高い種族です。」


露木は握りしめていた手を解くと、テレビに映し出された西高生徒の写真をリモコンで消した。


「ですが…些細なきっかけで道で迷子になり、深く暗い穴から悲しさを訴える方を救助出来るのは青龍しかおりません。

残酷な行いに見えるかもしれませんが、日本の青龍は、何百年も人間を導いてきたのです。」


「他の奴らは何をしたんだよ」


「五月病にかかった皆様全員が不道徳な行為をは働いたわけではありません。五月病にかかった人数が多いので、こうやって人数調整しているのですよ」


たまたま網にひっかかったから、素行を暴くなんてやはり不公平じゃないか。

俺は立ち上がって、露木の前に立った。


「じゃあもう1人はどう決めるんだよ」


「2年5組の佐藤冬彦様。ご両親のお財布から金銭を抜いてますね。えー、あとは1年1組の真中由香里様。中学で虐めの主犯格。流石、西高合格者ですね。虐めはバレずにスクールカースト上位でご卒業されたようです」


…柏木とはレベルが違うが、どいつもこいつも何やってるんだよ。


「人間なんてそんなものですよ、星様。

腹を覗けば、愛より憎悪や嫉妬、妬み、憎しみが生きる煙のように立ち込めています。

時に静かに、時に激しく。煙の中にいれば自分の善悪などわからなくなりますから」


露木は冷めてしまったお茶を口にした。

冷静なように見えて、人間の感情について話す時はやや早口になり憤りを感じる。


「星様がご決断されないならば、私が見繕って、星様のご決断だと上にご報告いたします」


正直そうしてくれるとありがたい。


「ですが、柏木様には罰を与えません。

生殖本能に長けていることは今後、少子化問題に貢献出来るでしょう」


「え、評価するのか」


「ご不満ですか?ましてや男女の色恋の争いなど、江戸前より生じてきた問題です。

倫理感が発達した令和だから悪く聞こえますが、昭和にはこんな男ゴロゴロおりました。

女遊びは男の勲章と言われていた程です」


露木の説明が腑に落ちてしまう自分が情けない。が、映像に存在していた女の子を見捨てるのも間違っている気がする。


「少しだけ、時間をくれないか」


「想定内です。3日ほどお悩みください。

あ、リストを送ります。不道徳生徒には写真の下に説明書きが記載されています」


露木は俺の発言に満足したのか満面の笑みで

スマートフォンを取り出した。


トットコ♪


俺のスマートフォンはメッセージを受信した事を告げ、青白く光った。

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