第5章 The Glitch in My Friend【お菓子の家】
嵐は収まらなかったが、露木は気がつくと
男子高校生の姿に戻っていた。
いつも通り、俺の世話を焼きたがる。
「考えるのには気が散ると思うが、今日は泊まらせてもらう。嵐に打たれたら公道で白龍になりかねない」
風呂から出た俺を手招きし、慣れた手つきで髪を乾かした。
「やめろって、自分でやれる」
「慣れている。誰かに髪を乾かされるの好きじゃないのか」
「いや、嫌いじゃねえけど…」
お前みたいに切り替えられねえんだよ。
目を閉じてドライヤーの作業をまかせる。
温風を耳で感じると、友達の姿が頭の中をフィルム映画の様に、荒く雑に映し出される。その雑さは柏木の非道な行動を色濃く見せた。
その後俺たちは必要以上に話さなかった。
だが、仕事をこなすのが当たり前のように俺は露木から選別された残りの生徒の素性や素行の説明を受けた。
***
「おはよ〜星ちゃん」
柏木がヘラヘラと菓子パンを食べながら教室に入ってくる。ハイカロリーを摂取しながら俺の前の席に座った。
嵐は過ぎ去り、平穏な日常が戻ってきた。
表面的には。
「おはよ、昨日部活休みだった?」
「おーよ。ゆいちゃんとカラオケ行ってきたよ」
柏木がニヤニヤとスマートフォンの画面を俺に見せた。彼女とインカメで写真を撮ったようだ。高校生カップルらしい一枚。
「幸せなとこ悪いけど、元カノとはなんで別れたの」
「えー?なになに。星ちゃん。俺の幸せが憎いの?自分に彼女いないからって!」
「ちげーよ。元カノとも上手くいってたじゃん
だから何でかなって」
「星ちゃんには露木がいるじゃん」
こいつ…露木に情報売ってたくせに。
よく言うわ。
「今後の恋愛の参考までに!何で?」
柏木は笑顔を終わらせたかのように、一瞬で口角を下げた。
「……くれないから」
「ん?」
「俺の欲しいものを…くれないから…」
柏木は菓子パンの入っていたビニールを音を立てて丸めた。
自分が口に出した言葉をかき消すように。
「まあ、普通に俺忙しすぎてさ!彼女が俺の部活やら付き合いを理解してくれないと難しいんだよね!すれ違いってやつ?そのパターンで全部別れてるな」
笑顔が眩しい。皆が好きな柏木の明るいオーラが顔全体から溢れ出ている。
やけに力を感じる。
システムバグで一度強制終了し、再起動させたのだ。柏木は笑顔を稼働している。
電源を入れて、画面を明るくし、俺たちが見たい姿を映し出している。
だが、俺にはわかってしまった。
柏木は稼働しているのだ。柏木裕太という人間を。
「たしかに…お前、キャプテンだし成績はまあまあだし。中学の時、俺は神童だって自負していたけど、この学校に入ってお前みたいなやつを見て自分の井の中の蛙具合に驚いたもん」
おちゃらけようとしている。俺自身も。
目の前の友達の笑い声がスローモーションになり脳内にコダマする。
理想の友人として映る人間は柏木なのか。
柏木は一人で作っているのだ。
設計書は殴り書き。壊れた材料。
目で見た知識だけで作られた、甘い甘いお菓子の家を。
子供の頃、みんなが憧れたお菓子の家。
外側に塗られたチョコレートを溶かして、覗いてはいけない。
中には腐った残飯が詰められている。
…柏木は…人を傷つけて自分の小さな家を守っているのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます