第3章 a spring tempest【人数調整】
ヴーッヴーッヴーッ
ポケットに入れていたスマホが鳴り
一気に現実に引き戻された。
『あ、星?雨すごいでしょ。今日ママこのまま出版社の人と飲みに行って、泊まろうと思って。うん、電車止まったら嫌だし』
わかった、戸締りね。ちゃんとするよ。
と電話越しの母に返事をすると手短に電話を切った。
「都合がいいです。星様」
露木はにこりと微笑むと、タオルで尻尾を拭いた。
「家で何する気だ」
「こちらを見てください」
白い蛇のような皮を覆った腕がスッと伸びて、
テレビの液晶画面を指差す。
指差した瞬間テレビの画面が明るくなり、
画面の中には証明写真が羅列された様に様々な人が映し出された。
「なにこれ」
「神奈川県立西湘高校から選ばれし15名です」
「え?あ…柏木もいる。なんの選別だよ。
てか怖」
「ふふ、柏木様もいらっしゃいますね。
とてもお美しく写っておられます」
俺はテレビの前のソファに座り、映し出された生徒を見つめた。
「で、何?西高から日本のエリートを誰にするか選ぶってわけ?」
「星様、お隣失礼します」
雷は俺の隣に座ると、ぴったり身体を密着させた。
「いえ……逆です。神奈川県、公立高校1位の偏差値を誇る西高から、人生の欠落者を2名ほど選出していただきます」
「欠落者…?え?嫌だよ。なんで俺が?
欠落者って…柏木も候補なの?
あいつは1年から同じクラスだけど良い奴だぞ」
「柏木様は中学時代から成績優秀、バスケットボール部キャプテン。少ない休みで友人と交流を深め、最近隣のクラスの人気女子、鈴川結衣様と交際をはじめました」
「おう、そうだよ。欠落なんてしてないし
これからもしないだろ」
「星様は心までもその煌めく星のようにお美しいんですね」
露木はゆっくりと手を伸ばし俺の頬を撫でた。
俺はこの男に目を合わせられると身動きが取れなくなる。それを知っているのか、露木は話を続けた。
「でも…。軽々と星様の個人情報を開示しました」
「…それは!…別にたいしたことじゃないだろ」
「女性との遊びを引き換えに、3年間共に学んだ親友の情報をペラペラと…?」
露木の優しい表情ががガラッと変わり、
目の中に光る電流がパチパチと音を立てる。
「いやいや…アイツだってお前が悪いやつじゃないってわかっていたからだろ」
「星様は優しすぎますね。先が思いやられます」
露木は深いため息をついて、頬から手を離した。
「彼が3年間でお付き合い…いや、お付き合いされればいい方で、身体のみの関係をもった女性は50名を超えております」
「50!?」
「はい。噂によると、お付き合いを匂わせるような発言をし、相手が身体を許すと貪り食い、
飽きると相手に非があるように陥れ関係を解消するようですね」
俺は淡々と説明される柏木の裏の顔に絶句し、受け入れられず項垂れた。
「3年間で、柏木の悪い噂なんて聞いた事ねーよ。そんなめちゃくちゃな事やってたら少なからず話題になるだろうし、部活だってマズイだろ。あいつはバスケで大学も行くだろうし」
「柏木様は、誰もが羨む女性のステータスなんです。狭い世界にいる高校生が、そのレベルの高い男に弄ばれたなんぞ言えないのでしょう」
「そんなの…酷すぎないか」
「だから、柏木様も公式な彼女としてSNSに登場させたのは3年間で数人ほどの筈です」
信じたくないが…確かに柏木はモテるし、
彼氏にしたら自慢であろう。
成績優秀、人からの信頼も熱いバスケ部のキャプテン。
「柏木様はこのままスポーツ推薦で大学へ進学し、ミスコンに選ばれるような女性と交際。
交際しながらも、裏では数々の女性を抱きながら有名商社や広告代理店、流行りのIT企業へ入社。28歳から30歳程で、長年付き合った本命女性とご結婚。都内や神奈川県の高級住宅地に家を購入され…」
「やめろやめろ!!」
俺はペラペラと話し続ける露木の口を手で塞いだ。
「失礼しました。柏木様の人生を欠落させますか?」
「だから、なんなの!?その欠落って!」
「ふふ。そうですね。お母様もいらっしゃいませんし、ゆっくりご説明します」
露木が立ち上がり、お茶をいれますねとキッチンへ向かう。
「五月病ってわかりますか」
「うん、まあ、わかるよ。連休明けとかに
仕事とか人間関係がめんどくさいってなるやつだろ。俺はなった事ないけど」
「流石星様。優秀な青龍にお育ちになってますね!」
「いいから早く」
「ふふ。五月病という言葉は、1960年代、高度経済成長期頃から使われ始めました。まあ、我々がそう呼ばせたのですが」
「へえ」
露木はお茶をテーブルに置き、どうぞと微笑んだ。
「毎年日本には5月にメイストームが現れます。春の嵐ですね。本日の様な天気です。
我々神庁は、メイストームに少量の仕掛けを仕組んでいます」
雨は相変わらず、窓に打ち付けられ風もゴウゴウと音を立てている。
「仕掛けに影響された人間は、五月病と呼ばれる不可解な身体バランスを崩す病に冒されます。
高度経済成長期には、やる気のある人間が多すぎました。当時、人間の善悪の善が増えすぎてしまい、善が悪となったり悪が善となったりバランスを崩しました。我々が欲しいのは真っ当な善と、分かりやすい悪です」
露木はお茶を啜り微笑んだ。
「そこで、病にかかった人間の人生レベルを少しばかり落とすのです。我々の管理がしやすい様に」
「…」
「ふふ、おわかり頂けましたか?」
「わかるか!最低だな!というか何で西高生徒だけテレビに映して説明してんだよ!気味悪い!」
「それは…失礼しました。西高の生徒は優秀なので、メイストームの影響から五月病にかかるのは毎年5人以下だったのですが…こちらの事情で、15名ほど影響が起きております。人口も少なくなっていますし、我々も15名は多すぎだと昨日緊急会議を開きました」
「で?」
「西高の皆様は非常に優秀な人間ですので、2名ほどにいたしましょう。星様の初仕事です」
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