第12話 エンリケの囮作戦
「ホセを殺す」とのたまっている日本人がいる。
そいつは日本ではちょっと知られたある地方の最大規模を誇るやくざの跡取りらしい。「車を見つければ1万ドルの賞金を出す」という偽の噂まで流し、自分を捜している。車を盗まれた仕返しに落とし前をつけるそうだが、こいつは切れると相当やばいらしい。ロサンゼルスに長くいるのも未成年で既に数人殺めて逃げてきているからだ…。
こんなばかげた話を実しやかに噂として流したのは言うまでも無くエンリケだった。あの晩オレのDATSUNの陰に潜んでいたのはこいつだった。元からオレを囮にしてホセを誘き出そうと考えていたらしい。オレに言わなかったのは囮にされると聞いたら逃げるだろうと。見くびられたもんだ。(でも当たっている…)
ホアンなら強制送還でメキシコへ戻されることを恐れてポリスに行くこともできず、さらに最初に車を盗んだのはホアンなのでオレたちに話すこともできないだろう…と高をくくっていたホセは、突然降って湧いたような、日本人が自分を狙っているというストーリーを聞かされていい気はしなかったのだろう。ジャパニーズマフィアがジャパニーズマネーに物を言わせて、しかも切れたら何をするか分からないイカレタ奴が自分を襲って来ると恐怖したらしい。しがない語学学校の学生兼ウエイターを捕まえて失礼な話だ。
何のことは無い、ホセも得体の知れないオレを相手にしてただただ怯えていただけだった。ただし仲間の手前、尻尾を巻いて逃げるわけにも行かず、とりあえずオレを脅して手を引かせようとしたのだった。
初めてホアンのアパートへ行った際に、北さんの300ZXをアパートのまん前に駐車していたオレをどこからか見ていて、車のオーナーだと勘違いしていたらしい。エンリケはそれをわかっていて仕組んだのだ。
ホセは「日本のとある地方最大規模のヤクザのせがれ」だという情報の真偽を確かめたくてオレに何度もバカな質問をしていたのだ。今だから言うが、奴らのパンチや蹴りが及び腰だったのはそういうわけだった。目隠しをされなかったのも単にやつらもパニクっていたからだろう。巨悪どころか、大魔王クッパの手下の中ボスにもなれないような下っ端だったのだ。オレのバカバカしい「お触れ作戦」に、さらにバカバカしい嘘のストーリーがくっついた「(バカバカしい)の2乗作戦」にこいつらは引っかかったのだ。
まあ短時間でマリアを救うことができたのは良かったが、エンリケに偉そうにされるほどあいつの作戦も大したもんじゃなかったと、命まで張ったオレとしては思いたい。もっとも撃たれたと思って気を失いかけただけだったけど。
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