第2話 天使の微笑とおにぎり

 少年に魅入られるように佇んでいると、そのつぶらな瞳がまっすぐこちらに向かってきた。

 近くに来るとその瞳がさらに印象的に映った。生命力あふれる褐色の肌に、それと反比例するような儚く薄いブルー。バランスの取れたきれいな顔立ちが浮き立って見える。というのも首から下がNHKの「映像の世紀」に出てくる日本の終戦直後の孤児を思わせるような格好だ。首のところが伸びきったTシャツにところどころシミがついたぶかぶかのオーバーオールの長い裾を引きずっている。大きすぎるSONYのヘッドホンコードの先はそのジーンズのポケットに続いていた。

 そのまま、オレの鼻先まですーっとやって来て、「ニコッと笑う」物理的な動作ではなく、「オーラがかかったような微笑」を湛えたままジーッとオレの顔を見つめた。そして、おにぎりが入った紙袋をつかみ上げ、そのままふわりと方向を変えて、もと来た方へと戻っていった。ロサンゼルス、ロサンジェルス、ロス、エルエー(LA)。日本語での呼び方は色々あるけど、スペイン語で「天使たち」と名付けられたこの町で、それまでに一度も天使に出会ったことなど無かったオレは、その間全く反応できずに、その寡黙な「天使」の所作に見惚れていた。そして突然、その天使が拉致されるのと同時に現世にひき戻された。


 黒いタンクトップに油汚れしたような作業用オーバーオール。160センチ足らずの筋肉のかたまりがいきなりその天使を持ち上げると肩に抱え上げたまま、真っ直ぐこちらへ向かって歩いてきた。

「ケパソ!(How are you?)」

 それがホアンとの出会いだった。

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