第2話 平和の訪れに歓喜の声が

王都の掲示板は、ずいぶん静かになった。


紙は貼られている。

害獣駆除、街道の見回り、倉庫荒らしの捕獲。

どれも小さな仕事だ。報酬も安い。剣や魔術を本業にする者にとっては、食いつなぐには足りない。


「……妙だな」


文官の一人が言った。


数か月前まで、この国の周辺では魔物の動きが活発だった。群れを成し、学習するように罠を避け、討伐隊の編成を見て動きを変える。被害は増え、王朝は予算を追加で回した。


それが、ぴたりと止まった。


境界の砦からの報告は同じだ。

魔物は出る。だが、深入りしない。

人里に近づかない。

争いを避けるように、森へ戻る。


「勇者が働いているのでは?」


誰かが言い、誰も反論しなかった。


勇者はいつもそうだった。

どこかで戦っている。

だから、ここが静かになる。


だが、冒険者ギルドは正直だった。


昼過ぎの酒場。

古株の冒険者が、薄い酒を舐めるように飲んでいる。


「仕事がねえ」


相棒が頷く。


「魔物が出ねえ。出ても弱い。噂じゃ、連中、妙に大人しいらしい」


「平和で結構じゃねえか」


若いのが言うと、古株は鼻で笑った。


「平和は腹を満たさねえ」


剣を置いた腕は太い。

昔、何度も刃こぼれを直した痕がある。


「勇者様が全部片付けちまってんだろ?」


「さあな」


「勇者様がいる間は、俺たちは端金稼ぎだ」


酒を飲み干す。


「魔物が賢くなったとか、学習するとか、怖い話もあったが……」


古株は肩をすくめた。


「今は逆だ。賢すぎて、出てこねえ」


誰かが笑った。

誰かが黙った。


王朝の記録には、こう残る。


――魔物活動、沈静化。

――原因不明。

――勇者の活躍によるものと推測。


冒険者ギルドの帳簿には、こう残る。


――討伐依頼、減少。

――酒場、客足減。


そして酒場の隅で、古株はもう一杯頼む。


「商売上がったりさね」


誰に向けた言葉でもなかった。

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