EP10_暗黒の執筆。ただのべた塗り

EP10_暗黒の執筆。ただのべた塗り


 数時間後。

宿に戻ってきた魔導士は、織田さんに仕立ててもらったばかりの

『漆黒の長外套』を翻し、悦に浸っていた。


「見よ、勇者よ! この裾のたわみ、風を孕むシルエット……これこそが真の我を体現する

『聖衣』だ。どうだ、この圧倒的な黒の——」


「マズイ、全然間に合わない……ッ!」


 俺は魔導士の自慢話を1ミリも聞かずに、原稿用紙にかじりついていた。  

視界の端の数字は残り数分。魔導士を構っている余裕なんて1秒もない。


「何をやってるんだ?勇者よ」


「あーもう黙ってて。えっとこことここににベタを塗って…」


俺は魔導士を無視して、べた塗りの作業に取り掛かる。

髪に背景に、と塗り続ける


「なんだそれは、勇者よ」

「えっべた塗りだよ。この「×」て書いてるところを枠からはみ出ないように黒で塗りつぶす…」


「漆黒で塗りつぶす…だと?なんという響きだ」

なんか勝手に感動してるけど放置だ、放置。


「その作業ぜひ我にやらせろ」


「え?なんだって?できんのか?」


「……ふん。枠からはみ出さぬ完璧な暗黒を構築せよ、ということか。

なるほど、細かな魔力制御を必要とする儀式なのだな。そのような芸当、この我にしかできん。やはり黒は最高だ……」



 魔導士は誇らしげにペンを手に取り、驚異的な集中力でベタを塗り始めた。

四天王の魔力制御をベタ塗りに使う贅沢……。


 一方、そんな二人の様子をベッドから見ていたサキュバスが、むくりと起き上がった。

 自分だけがのけ者にされているような疎外感。彼女はふらふらと俺のすぐ隣まで寄ってきた。


「ねえ、なんか楽しそうじゃない。私にもやらせてよ」

「これは我の神聖な仕事だ。下賎な女は邪魔をするな」

「なんですって? 私の方が綺麗に塗れるわよ!」


 二人が俺の頭越しに原稿の奪い合いを始めた。


「ちょ、やめろ、引っ張るな! 原稿が——」


 ——ブシャッ!!


 その瞬間、サキュバスの手がインク瓶に当たり、描きかけの原稿の上に真っ黒な染みが広がった。


『——判定。著しいクオリティの低下が確認されました。読者の期待を裏切ったため、ペナルティを与えます』


「あ、あばばばばばばばばばばばば!!?」


 至近距離で炸裂する特大の電撃。俺は白目を剥いて椅子から転げ落ちる。


「あ……ご、ごめんなさい坊や。わざとじゃ……」

「貴様! 我の至高のベタが台無しではないか!」


 脳内で無慈悲なアナウンスが響く。


『カウントダウンをリセットします。次回の締切は六時間と三分後です』


俺は全身から煙を上げながら、真っ黒に汚れた原稿と、喧嘩を始めた四天王二人を見上げて力なく笑った。


(アシスタント……。こいつら、いない方が進むんじゃねぇか……?)



まだまだ続きます。よれば感想とかお願いします。

ちょっとキャラの掘り下げが荒いので、そのうち修正予定です

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