EP3_「選ばれし勇者」と「眠れる森の美女」

王の間では、早くも「勇者」たちの決起集会が始まっていた。  

この国の王は、いかに魔王軍が残虐非道で、罪なき人々を苦しめているかを

涙ながらに説いた。


「任せてください! 俺たちが来たからには、その魔王ってのをぶっ飛ばしてやりますよ!」


 『聖剣士』を引いたクラスのリーダー格が、授けられたばかりの業物を引き抜き、高らかに宣言する。  鑑定で当たりスキルを引いた陽キャチームは、

異世界というファンタジーな状況に酔いしれていた。

一部の生徒は「いきなり実戦なんて無理だ」と拒否反応を示したが、

王が約束した莫大な報酬と、英雄としての厚遇に目がくらんだ彼らは、

意気揚々と城を飛び出していった。


 一方、城から文字通り「叩き出された」俺は、重いキャリーケースを引きずりながら、城下町の安宿に転がり込むのが精一杯だった。


「……ま、あいつらなら大丈夫だろ。鑑定だとステータスも高かったしな」


 俺は、宿の薄暗い部屋で、異世界に持ち込んだ画材と脳裏に浮かぶ『強制締切』

のカウントダウンを確認していた。  刻々と減っていく数字。

それが何を意味するのか分からないまま、もう一つのスキル『ペーパーワーク』

を試してみる。  呪文を唱えるように念じると、目の前に紙とペンが

音もなく現れた。見慣れた原稿用紙と、手に馴染んだ愛用のペンだ。


 今日一日のあまりの騒動に忘れかけていたが、ふと、サークルが落選した虚しさが蘇る。  次回こそは受かって、いつの日か、あの憧れの壁サークルに……。


『カウントダウンを開始します。残り1分です』


「……は?」  突然、無機質なアナウンスが脳裏に響いた。

 一体なんだ? ここに何かを書けということか? だが、何を?  

焦りが募る。心臓の鼓動が早まるが、何をどう描けばいいのか指先が動かない。


『時間です。成果は……ゼロ。ペナルティを与えます』


 ——ッ!?  全身を焼き焦がすような激痛。電流が走ったかのように、

俺の体は床の上で跳ねた。


『次は頑張ってください。次回締切は、6時間後です』


 無慈悲に、再び数字が減り始める。  冗談じゃない。

6時間後までに何かを完成させなければ、またあの激痛が来るのか。

 俺は落選した悲しみも、異世界への不安もすべてかなぐり捨て、

震える手でペンを握った。  生きるために、描くしかない。


 ——その頃。  城を出て、意気揚々と魔王領へと続く森を進んでいた「勇者」チームは、道端で横たわる一人の女性に遭遇していた。  

深くフードを被っているが、その下からでもはっきりと分かるほど、スタイルが良すぎる。薄手の衣装から覗く肢体は、思わず生唾を飲み込むほどに煽情的だった。


「お、おい……大丈夫ですか? こんな森の中に一人で寝ているなんて……」


 下心混じりの心配を浮かべ、リーダー格の勇者が距離を詰める。

 彼が覗き込むようにフードをめくると、その隙間から妖しく光る瞳がこちらを見つめていた。


「ふふ……。ちょうど小腹が空いていたところよ。元気なオスの子たち」


 それが、最強の勇者チームが味わった最初の絶望だった。  甘い吐息一つ。たったそれだけで、王国の希望だった勇者たちは、戦うこともできずにその場に崩れ落ちた。


「あら……。味見のつもりだったけど、これっぽっちで終わり? 随分と脆いのね」


 美女——四天王の一人のサキュバスは、物言わぬ肉塊となった勇者たちにはもう興味を失ったように、ゆっくりと立ち上がった。


「……あら? まだ城下町の方に、美味しそうなオスの匂いが残ってるじゃない」


 彼女は、何かに導かれるように、森の奥から城下町の方角へと歩き出した。

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