EP1_俺と即売会

灼熱の太陽が照りつけ、見事な快晴の中。  

そこには地平線まで続くかのような長蛇の列があった。  

そこかしこで、奇抜な格好をした『スタッフ』たちが声を張り上げている。


「ようこそ魔窟へー! 前の方に詰めてくださーい!」

「足元にゴミ落ちてませんかー! 暑さで魂が抜けてる人、落ちてませんかー!」 「歩くのが遅い人は飛んで追い抜いてください! ここは戦場です!

死ぬ気で並んでください!!」


 狂気すら感じる熱気。だが、行列からは笑い声が聞こえる。もはや名物となった、スタッフたちによる粋な掛け声だ。


「今回のカベサー、見たか?」 「ああ……。徹夜で並んだ甲斐があったな」


 肩を組んで歩くのは、フードを深く被り、禍々しい杖を携えた魔導師。  そして、全身を重厚な鎧で固めた兵士——のような格好をした男たち。

 妙な扮装をした参加者たちが、列に並びながらお互いの戦利品を見せ合う。  その手には大切そうに、一冊の『薄い本』が握られていた。


 昇ったばかりの太陽は、容赦なく参加者たちを照らし続けていた。


「……ふぅ。今回も戦場だったな」


 人混みの間を縫うように、パンパンに膨らんだキャリーケースを引いて歩く一人の少年がいた。佐藤(さとう)だ。  重い荷物に腕の筋肉が悲鳴を上げるが、その表情には奇妙な達成感がある。


 彼の視界には、多種多様な人間が入り乱れる会場の景色が映っていた。

 露出度の高いセクシーなサキュバス。痛々しいほどの中二病ポーズを完璧に決めている美形男子の魔法使い。重厚な金属音を響かせて歩く、アイアンマンのコスプレをした筋肉質の外国人。


 そんなコスプレイヤーたちの間を通り抜け、佐藤は別棟へと向かう。  

会場を包むのは、物理的な熱気と、紙とインクが混じり合う独特の匂いだ。


(あーあ。俺も自分のサークル、当選してたらなぁ。……まあ、落選の腹いせに爆買いできたからいいけど。これ、帰りのバスで読むのが唯一の楽しみだわ)


 佐藤はスマホの時計を確認し、一瞬で顔を青くした。


「やばっ! 修学旅行の集合時間ギリギリじゃん! 東京駅までダッシュしねーと!」


(俺だけ別行動(ブッチ)して即売会に来てたなんて、アイツらには口が裂けても言えない。……まあ、どうせ誰も俺のことなんて見てないけどな)


 佐藤はクラスでも「影の薄いボッチ」だった。  修学旅行の自由時間をすべて使い込み、戦利品でパンパンになったキャリーケースと数個の紙袋を抱え、彼は東京駅へと走り出した。

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