第2話 国家防衛庁:待木政策官の記録

 国家防衛庁……防衛庁が改組した総理府外局の行政庁だ。我々は国家として、一致した防衛が大切なのだろう。

 さて、私は国家防衛庁の政策官……を名乗っている。一応スパイが見つかったらしいので見にいくことにした。


「それで、コイツがどこの子飼いかわかったのか?」


 私が窓越し見つめる先には、捕縛されたハーフの自衛官と、それを問い詰める自衛官という図だ。警察の取り調べ室みたいな構図だと思っている。向こう側からこちらは見えないことだし。


「本人曰く、自分はスパイではないと主張していますが、裏付けられた情報から、ソビエト連邦軍参謀本部情報総局 オカルト部と結論が出ています」


「まあ、そんなところだろうと思ったさ。可哀想に、お国はとうに滅んでいると知っているだろうに」


 ソビエト連邦軍参謀本部情報総局 オカルト部はまあ、ソ連軍のオカルト担当部局だ。


「改めて伝えてやってはどうだ? 母国は滅んだと」


「ああいう奴らは信じませんよ。陰謀論者は視野が狭いんですから」


 まあ、そうだろうな。可哀想に。


待木まちき政策官、やはりハーフの自衛官の採用を控えるようにすべきでは?」


「亡国人差別はやめるべきだ。彼らは、帰りたいなら帰すし、残りたいなら働かせる。これがこの国の方針さ」


 まあ、でもコイツは亡国のスパイというよりも……まあ、それはいいか。


「後は好きに調理したまえ、もしいらないようなら、処理はウチがするがね」


 そう言って退室する。もうここに用はない。


待木まちきくん、例のスパイ見てきたのかい?」


「ええ、やっぱりな、という感じでした」


 上司の崎田さきだは暇そうだ。デスクにオセロを置いて一人で遊んでいるようだ。


「その様子だと、裏にいたのは、なんちゃって仲介者だったようだね」


 なんちゃって仲介者。まあ、そうだな。亡国の諜報機関の名を借りた、どこかの尻尾だろうからな。


「ええ、窓越しに“見た”感じもそうでした。もう少ししっかりと調べるならもらってきますが、どうします?」


 こうは言ったが、やりたくはない。面倒事は嫌いだ。

 一応、見たのだ。軽度の心理測定能力が使える程度だ。条件も多く使いどころは限られるが、まあ、それなりに重宝している。


「いや、いい。どうせそいつも尻尾切りされるからな。どこの省庁の手なのかは気になるがね」


 どこの省庁。ここは内戦中なのか? まあ、国家防衛庁や国家自衛隊にも他省庁の諜報員が紛れ込んでいるくらいだからな。尻尾ごと本体も捕まえられれば行幸だが、まあ、切られているだろうな。


街得班がいとくはんにいた頃の君の方が、私は好きだったがね。生き生きとしていたよ」


「そうですか? 私は、カラスや蝶々、内外庁を気にする日々はもう嫌ですけどね」


 実は、彼らの存在を感じ取ったことは一度もない。だから恐ろしいのだ。


「あー、待木まちきくん。政策官として、内閣情報分析庁に今回の自衛官の情報を共有したまえ」


 内閣情報分析庁。様々な情報・諜報機関の情報が集まる特殊な庁だ。そのため、各機関の信頼を失わないために、情報の機密レベルを定め、慎重に扱っている。

 最終的には沈黙を貫く。沈黙の情報機関として有名なのだ。


「わかりました。共有しておきます」


 一瞬、あのハーフの自衛官が頭をよぎった。もしかしたら私があの立場にいたかもしれない、そう思うと、恐ろしくなったと共に、やはり憐れになってきた。

 本当に可哀想に。窓のない部屋は狭く感じた。

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