第3話 特秘外交資料室:和泉技官の記録

 治部省……外務省から名称変更された省だ。第三次世界大戦を終え、日本以外の法治国家が消滅した今、外交という文字は消え失せた。そして超常国家との外交は水面下で行われる。治部省への変更は妥当だろう。静かなる変化だ。

 私はある文書を持って室長室を訪れる必要があった。新たなる変化が訪れたのだ。

 特秘外交資料室 室長室とプレートの貼られた扉をノックする。


「失礼します」


 どうぞ、という言葉が聞こえたので、背筋を伸ばし、入室した。これは私にとっては慣れない仕事だ。だが、国益のため、市民のため、国家のため、この仕事は必要なのだと、自身に言い聞かせる。

 薄暗い赤と濃い茶色でまとめられた室内。室長はその奥のデスクにいた。


「それで、和泉主任特秘外交官補佐殿。本日はどの件かな?」


 こんなんだが、特別内部部局の特秘外交資料室の室長はかなりの権限を持つ。外局相当であり、オカルトの司令塔でもある室長は行政庁長官と同等の権限を持つのだ。こんなんでも。


「室長。例の資料をお持ちしました。“例”の資料です」


 あえて、例のを強調した手に持った文書をデスクの上に置く。室長は文書に視線を落とす。


「ふむ、内政省や他省庁、特に内閣情報分析庁なんかには気づかれてないだろうな」


「はい、おそらく」


 私にはそういうしかない。実際どこまで把握されているのか、通告もされていないので、おそらく気づかれていないという回答になってしまうのだ。

 というか、本来なら摘発を受けて一網打尽になってしまいそうな案件だ。特に超常公安局なんかは気をつけるべき存在だろう。


「しかし、四十旗革命軍。彼らはやはりどこの省庁でも手出しできていないのでしょうか」


 四十旗革命軍。反日本的組織の代表組織だ。というか、反世界政府組織とも言われている。


「あれに接触するのは大変なことだ。各省庁潜入調査に成功したという報告は聞いていない。我が省もいまだに、運営している組織、機関は接触できていない」


「辛抱が大事ですね。焦らず、ゆっくりと」


 組織の起源は地球の外来だと言われており、超常国家との交流により発生した弊害だ。

 室長は改めて手渡した文書に視線を落とす。そこには、我が省の運営する組織、機関の現在の運用状況が記されている。これは他省庁に知られてはいけないものだ。

 室長は、手に取り文書を一枚一枚捲って確認している。


「ふむ、現状維持が一番か」


「そうですね。下手に動きすぎて悪化してしまっては元も子もないですから」


 捲った資料に書かれた文字が目に入る。“日の入りラヂオ”。現在、地球上で活動を行っている反日本的組織でもあり、治部省 大臣官房 特秘外交資料室傘下の組織でもある。つまり、我が省の諜報機関でもあるのだ。


「日の入りラヂオについて少し報告が」


 室長は視線を私に向ける。面倒事じゃないだろうな、と圧をかけられているようにも感じる。


「新規局員をスカウトしたという報告と、内政省によるガサ入れを察知して一部拠点を放棄したと報告が入ってきてます」


「忌まわしき内政省め」


 室長は静かに唸り声をあげるかのように声を絞りだし、デスクに肘をついた。頬に手を当てる。


「新たなる変化として、今回スカウトした局員が四十旗革命軍にも目をつけられていた可能性があるそうです」


「ほう、それは朗報だ」


 室長の声は思わず出た声、というのが正しく感じる。喜びはあるものの、国家の安泰よりも諜報対象がわかりやすく動いたことへの歓喜のように感じた。


「今回スカウトした男子高校生をしっかりと検査すべきだと指示しました」


「適切な指示だ。しかし高校生か。そこは不安材料だな。若人わこうどほど何をするかわからないからな」


 確かにそうだ。若者ほど何をするかわからない。暴走しないよう監視を強めるべきだろうか。


「今まで通りに遂行せよ。内政省や公正法務省には気をつけよ。以上を主任特秘外交官へ伝えられよ、和泉主任特秘外交官補佐殿」


「かしこまりました、室長。それでは失礼します」


 そう言って、室長室を後にする。

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