嘘つきだーれだ・嘘つき拡散希望〜
壊れたガラスペン
第1話 横浜理科大学附属高等学校:飛沢真也の記録
日常を繰り返す日々。横浜理科大学附属高等学校に通えているのは両親のおかげだ。不満はない。と言えば嘘になる。両親によって敷かれたレールの上をただ走るだけ。両親によって設計された自分に価値はあるのだろうか。教育もそうだ。今の日本を盲目に信じていいのだろうか。
言葉に出せない不満。
学業に不満はない。ただ、不安はある。このまま学び、就職し、恋愛をし、結婚し、子供ができる。そしてまた自分/日本の意思を詰め込んでいく。この作業に意味などあるのだろうか。
カラスだ。なんかこっちを見てる気がした。
そんなある日、帰宅すると一通の封筒が郵便受けに入っていた。それは無地の白色でただ、表面に
『
と書かれているだけだった。差出人も切手もない謎の封筒。だが、間違いなくこれは、自分だけが開かなければならないものだと直感した。
両親に顔を見せた後、すぐに自室に向かい封筒を開く。簡単に開いたそれには紙が一枚折りたたまれて入っていた。
———・———
飛沢 真也 様
突然のお手紙を失礼します。我々は常々今の日本国は正しいのか、それを問い続けていました。そして、それら感情をつのらせている同士を探しています。我々の仲間には軽度の心理測定能力者がいます。あなたから発せられる強い思いは、我々には欠かせないものです。
突然ですが、明日の下校時に我々と同行してもらえないでしょうか。ぜひとも、我が同士たちと出会い、我らの手で日本国を正しい方向へと導く手助けをしましょう。
名無しの同士より
———・———
鼓動が早くなるのを感じる。手紙を持つ手が震える。しっとりと湿り気すら感じ始める。それと共に、ガチっと何かがハマる音がする。
これだ。これが足りなかったんだ。そんな気持ちが湧き出てくる。
よく見ると続きが書いてあった。
———・———
追伸
両親への挨拶は済ませてください。我々と共に歩むなら二度と会えない、そう思ってください。
———・———
あの、善良なる日本人の両親とは会えない。会えなくなる。そう思っても、この勧誘には抗えない。もう会わなくていいとすら思っている。自分は彼らの操り人形じゃない。手作り人形でもない。確かにここに存在する一人の人間だ。意思もある。
これは希望の手紙だ。震える手で、それでも確かに感じる紙の感触を確かめる。ここにある。ここに存在する。確かな手紙。そしてその内容は信じていいと直感する。
こんなにも明日が待ち遠しいのはいつぶりだろうか。誕生日? 実家へ帰る日? いや、この気持ちはそれすらも凌駕する。寝れるだろうか。明日、世界が滅んだりしないだろうか。そんな不安と共にいる。手紙は折りたたみ、両親が見ない自身の学校カバンの中にそっと忍ばせた。
さあ、晩御飯だ。いつも以上に楽しみが増えた。これが生きる意味を見つけるということだろう。
翌日。学校の授業はほとんど耳に入ってこなかった。学友の話しも、先生の声も通り抜けていく。まるでスカスカの人間にでもなったようだ。浮かれているのだろうか。迫り来る下校時間がこれほど楽しみになったのは初めてだ。
そして、ついに訪れた下校時間。友人の誘いも断って一目散に下校する。いつもの道をいつものように歩く。それだけのはずなのに、とても難しく感じてしまう。歩き方を忘れた感覚に陥っている、そうな気がしてフラッと倒れそうになる。カラスがバサバサっと飛び去った。
そんな自分の背を手で支えた人物がいた。外套を着用した……男性だろう。飛び去ったカラスがチラッとこっちを見た気がする。なんだ?
「飛沢真也だな?」
そう尋ねられ頷く。
「はじめまして、私は名無しの同士。こんなところではあれなので、いい場所へ案内しよう。きっととても居心地のよい場所だ」
その男に案内され、車に乗る。
高速道の下を走った車はだんだんと山の方へ向かっていく。カラスがよく視界に入る。なんだろうか。
「本当は海沿いにも拠点はあるのだが、君は山の方が向いていると思ってね」
正直わからない。住めば都とも言うし、そんなこと気にしていない。
舗装されていない道を走っていると、コンクリート造りの建物の前で車が止まった。木々に隠れ、人目からは見えない場所だ。
男は降りる。男が車のドアを開けてくれたので自分も降りた。
周囲を見渡すと、畑のようなものも見える。自給自足でもしているのだろうか。
コンクリート造りの建物の前には数人立っていた。車に気がついて出てきたようだ。
「ようこそ飛沢くん。“日の入りラヂオ”へ。ここは反日本的活動を行う拠点の一つだ。君もすぐに馴染めるだろう」
男の言葉に同意する。自分はすぐに馴染める、そんな気持ちが湧き出ている。なぜだろう。わからない。でも、確かにここは新しい居場所だ。
カーカーっとカラスの鳴き声が空に響いた。
一瞬脳裏を両親がよぎった。彼らは確かに善人だ。標準的日本人なのだろう。だが、自分は違う。この先どうなるかわからない。だけども目の前の彼らと共に日本を、いや世界を変えたい。そう強い気持ちを抱かされた。
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