第4話

 騒ぎが収まった後、何事もなかったような面で皆が通夜振る舞いの席につき始めた。大ホールにはイスとテーブルが人数分ずらりと並んでおり、それぞれの机には懐石料理が用意されていた。


 親戚が一堂に会した賑やかな酒の場で、未成年の僕はひとり縮こまってオレンジジュースをたしなみながら、刺身以外は若干抵抗感のある品目を口にしていくのだった。そういう僕を見かねてか、父さんは常に僕のすぐそばで話し相手になってくれた。

 ときおり、父さんの顔見知りか親戚の人があいさつにこちらまでやってくる時はあったのだけれど、祖母祖父以外には面識のない人ばかりで、僕はよそ行きの顔でひたすら取り繕うばかりであった。


 しかし反面、向こうは僕のことを覚えてくださっているみたいで、彼らは異口同音に僕の大人びたことに反応を示していた。

 もしかしたら、彼らが一様に言っていた

「大きくなったなぁ」

 という言葉は僕の身体だけではなく、その精神性についての評価をしているのではないかもしれない。


 知り合いの内の、ある人は言った。

「さっきのみてたよ。ほら、国士くにおさん(おじさんのこと)の子供を泣き止ませたところ。俺らなんて、全然見ていることしかできなかったのにな」


 こうした言葉を幾人もの参列者からいただいたが、僕はこんな感じにほめられて手放しに喜ぶようなことはしなかった。口では「ありがとう」とは返して、腹の中では嬉しくなかったのである。


 これは、考えすぎなのかもしれないけれども、彼らの評価するところの僕の勇敢さは、

 すなわち『得体のしれない、長い耳を持った親子』に正面から立ち向かっていったことに対するもので、

 要はあの親子に対する不信感があって初めて成り立つ武勇伝なのであった。

 それを前提にした誉め言葉に浮かれることは二人の侮辱に値するような気がして、喜べなかったのである。


 僕は決して、あの親子が怖くて、それでも勇気を振り絞って二人のもとに向かったわけではないのだ。


 ただ本当に、心からあの少女のことを思っていて、彼女を何とか泣き止ませたくて、気づいた時には足が動いていた。それだけなのだ。


 だから正直言って、この人たちの賞賛にはあまり価値を見いだせなかった。僕が最も聞きたいのはあの二人からの、感謝の言葉、それだけで十分だったのだ。


 しかし件の親子は現在、この会場の中には見当たらないようだった。

 

 僕の母さんの姿も見当たらず、どこに行ったか知らないかと父さんに聞いてみれば、母さんはおじさんの奥さんと子供に連れ立って、別室にてお食事をしているとのことだった。

 それを知ったとたん、僕はこの大きなホールで起こるすべての出来事に興味をなくしてしまった。

 皆楽しそうに、ご挨拶や近況報告を交わしているが、あの親子がいないんじゃすべてが知ったこっちゃないことのように思えたからだ。


 そりゃあ、さっき「ありがとう」の言葉はもらったけれども。

 もう少し話がしたかったと思ったって、別に不思議じゃないだろう?

 そんなこと思いながら、モクモクと食事の手を進めて、いよいよ口につけるものが見当たらなくなってきたところに母さんが現れた。


「トオル、ミリィちゃんからご指名だよ」

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