第3話

 僕はゆっくりと歩を進めると、父の棺桶の中でうなだれている少女の傍らにゆっくりとしゃがんだ。


 何事かと、赤らんだ目をこちらに向けてくる彼女と目が合う。

 はじめて対面した彼女は思ったとおり、お人形さんみたいな愛らしい見た目をしていてお母さんそっくりだった。

 しかしせっかくの可愛い顔は涙で台無しになっていて、僕は急いで彼女を泣き止ませるためにあることを始めた。


 用意したのは、受付においてあった消しゴム。

 僕はそれを彼女の目の前にかざしてやった。


 そして、しばらく消しゴムを持った右手をゆらゆらさせて大きく注意を向けさせた後、僕はそれを勢いよく自分の口の中へ放り込んだ。


「――!」


 驚いて目を引ん剝く女の子。


(消しゴム食べちゃったの?)

 心配そうにこちらを見つめる彼女に、僕はにやりと笑みを返す。

 そして、左手に握りこんでいたさっきの消しゴムを見せて種明かしをしてやった。


 開いた口の中に、消しゴムを放り込んだふりをして、実は左手の方で高速キャッチをしていたのである。


 これは、僕がおじさんから教えてもらった手品の一つだった。

 ウケは上々。


「も、もっかい! もっかいやって!」

 彼女はせがみ始めた。


 ご要望通り、僕はもう一度消しゴムを飲み込む。それで、また左手から出す。

「やってみる?」


 そう提案すると、彼女は僕から消しゴムを受け取って、無心で練習し始めた。

 消しゴムをお手玉しながら、口をパクパク。ときどき取りこぼして膝に落ちたり、ホントにちょっと口に入ってしまったり。


 なかなかうまくいかなくてむずむずしてるけれども、僕としては大成功。

 彼女はすっかり泣き止んでいた。

「ママもやってみてよ!」

 少女に声をかけられた母親の方も気を取り戻して、髪を整え少女の方へと向き直った。

 二人がじゃれあってる間に僕は飛ばされたトークハットを拾いに行く。


 それから二人のもとに再び戻ってそれを渡したときだ。


「ありがとう」


 僕はその言葉を続けざまに二つ受け取った。


 一つは幾本もの涙の跡を残しながらも、精一杯の笑顔をくれた少女から。

 もう一つは僕の目をまっすぐ見ながら優しい微笑みを向けてくれた女性から。


「どういたしまして」


 そう答えたとき、僕の心の中でふと大きな感情が湧き上がってくるのを感じた。

 これまでに味わったことの無いようで、これから味わうこともできない予感がするぐらいのとてつもないものだった。


 そして、きっとあの日からなんだろう。


 あの日から僕は、エルフに恋をしている。

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