第17話 【OLとおじさんがイクゥ!】スタンピードの絶望が、俺の支援魔法で『集団喘ぎ』に変わりました。……おじさんまで元気になるのは勘弁してくれ


「いやぁぁぁっ! 来ないでぇぇぇ!!」


 東京・渋谷。道玄坂。OLの和田真由美(24歳)は、ヒールが折れるのも構わず、瓦礫の山となったアスファルトを走っていた。 背後には、深層から溢れ出した巨大な蜘蛛型モンスター『デス・スパイダー』が、涎を垂らして迫っている。


(死ぬ……! タカマサ助けて……!)


 恐怖で足が縺れる。 転倒した彼女の頭上に、死神の鎌のような足が振り上げられた。 終わった。 真由美がギュッと目を瞑った、その時だった。


カッッッ――――!!!!


 夜空から、目が眩むような「黄金の光」が降り注いだ。 それは温かく、まるで春の日差しのような優しさで、真由美の身体を包み込んだ。


「え……?」


 痛みが来ない。恐る恐る目を開けると、そこには信じられない光景が広がっていた。 凶悪な蜘蛛モンスターが、動きを止めていたのだ。 いや、止まっているのではない。蜘蛛は、なぜか身体をモジモジと震わせ、8本の足をだらしなく投げ出し、地面にへたり込んでいた。


「キシャァ……♡ クルルゥ……♡」


 まるで、骨抜きにされた猫のような鳴き声。そして、異変は真由美自身の身体にも起きていた。


「あ……っ♡ なに、これ……?」


 恐怖で冷え切っていた手足が、ポカポカと温かい。いや、手足だけではない。身体の芯――お臍の下あたりから、甘く痺れるような熱が湧き上がってくる。まるで、包容力のある逞しい男性に、後ろからギュッと抱きしめられているような安心感と、陶酔。


 真由美の彼氏・タカマサは、やせ型の私鉄勤務の列車運転士であった。ゆえに、この感触はきっと大学生時代に一晩だけ抱かれ、やり捨てされたサッカー部の男との記憶……。ではなかった。


 (あの時よりも、もっと気持ちいい♡)

「ふぁ……♡ なんか……力が抜けちゃう……♡」


 サトミは内股でその場に座り込んだ。 怖いという感情が、魔法のように溶けていく。 代わりに胸を満たすのは、理由のわからない多幸感と、エッチな高揚感。 周囲を見渡せば、逃げ惑っていた他の女性たちも、みんな頬を桜色に染め、ウットリと夜空を見上げていた。


「あったかい……♡」

「怖いの、なく…なた……」

「この魔力……すごく、好き……♡」

「やだ、太ももに垂れてきた…!?」


 地獄絵図だった渋谷が、一瞬にして「桃源郷(ヘブン)」へと変わっていた。


 ◇◇◇


 一方、新橋の雑居ビルの裏路地。 逃げ遅れたサラリーマン、平田忠重(課長/52歳)もまた、その「光」を浴びていた。


「ひぃぃ! 助けてくれぇ! まだ住宅ローンが30年残ってるんだぁ!」


 腰を抜かして震えていた田中。だが、黄金の光が彼を貫いた瞬間、劇的な変化が訪れた。


「んおっ!? ……あ、あれ?」


 まず、万年患っていた酷い腰痛が、嘘のように消え去った。 重かった肩こりも霧散し、20代の頃のような活力が全身にみなぎってくる。 これは凄い。究極のヒール魔法だ。だが――問題は「副作用」だった。


「ぬぉぉ……っ!? なんだ!?」


 田中は、自分の股間を抑えて困惑した。カァァッと熱くなっている。まるで30年前の妻との初体験のときのような。昼ご飯を1ヶ月ずっと我慢して、一度だけ、メンズエステに行ったときのような。 


 おっさんなのに。加齢臭の気になる52歳なのに。


「い、いかん! ワシは妻子持ちだぞ! なぜこんなところで勃起しているんだ!?!?」


 田中は必死に理性で抵抗した。 だが、大気中に充満した魔素(マナ)そのものが、あまりにも「包容力」に溢れすぎている。 本能レベルで「抱きたい!」いや「抱かれたい!」と言いたくなるような、圧倒的な雄(オス)の波動。


「くっ、この魔力の主は……なんて罪作りな男なんだ……っ! こんなの、おじさんでも惚れてまうやろぉぉぉ!」


 平田は謎の敗北感を感じながら、元気になった足腰でガッツポーズを取った。もちろん、その頬はほんのりと赤かった。


 ◇◇◇


「……よし。変換率、98%で安定」


 上空数百メートル。新宿の電波塔の上で、 俺、九条ユウトは、眼下に広がる東京の魔力分布(ヒートマップ)を【解析眼】で冷静にモニタリングしていた。


 赤黒く染まっていたマップが、見る見るうちに、穏やかなピンクゴールドへと塗り替わっていく。 これが、俺の【概念覆写・楽園】の正体だ。


 そもそも「スタンピード」とは、ダンジョン深層で澱(よど)んだ魔素(マナ)が、許容量を超えて地上へ溢れ出す現象のことだ。 帝はこれまで、その溢れ出しそうな排出口に「人間の生贄」という名の『蓋(ふた)』をして、無理やり抑え込んでいた。 だが、蓋をすれば内圧は高まり、中身は腐る。  


 今回、その蓋が外されたことで、腐った猛毒のマナが一気に噴出した――それが今の状況だ。


「毒を止めるのに、新しい『蓋』はいらない。必要なのは、きれいな水で洗い流す『循環』だ」


 俺は、俺の胸に寄りかかり、荒い息を吐いているレナとミナの背中を撫でた。


「はぁ……はぁ……っ♡ ユウト……空っぽに、なっちゃう……」

「私の魔力が……街中に……吸われていくぅ……♡」


 彼女たちは今、巨大な「濾過装置(フィルター)」であり「ポンプ」だ。 これは、あの裏・深層で「バグ魔物」を倒した時の応用だ。  


 あの時、俺たちは魔物の「呪い」を吸い上げ、彼女たちの身体を通して「快感」に変換し、光として放出した。 今回はそのプロセスを、ハッキングによって拡張し、東京という広大なフィールド全体で行っているのだ。


 結果――毒は中和され、地上に溢れたモンスターたちは、構成要素であるマナを「快感」に書き換えられて戦意喪失(骨抜きに)したというわけだ。


「誰かを犠牲にして『止める』んじゃない。全員で気持ちよくなって『回す』んだよ」


 これこそが、帝の「死の管理」に対する、俺の「生の循環」システム。 死亡報告はゼロ。 あるのは、副作用でちょっとウットリしてしまった都民たちの、平和なため息だけだ。


「よくやった、二人とも。……世界最強のSランク魔力、全部使い切ったな」


 俺が労うと、二人は汗ばんだ髪を張り付かせたまま、とろんとした瞳で微笑んだ。


「ん……♡ ユウトのためなら……全部、あげる……」

「へへ……私、みんなの役に……立てましたか……?」


「ああ。君たちの『愛』が、東京を救ったんだ」


 俺は二人に回復支援魔法(ケア)をかけながら、視線を一点に集中させた。 守りは完璧だ。この「楽園」の結界内では、もう誰も傷つかない。  


 だが――唯一箇所だけ、この甘い空気を拒絶し、どす黒い怨念を垂れ流している場所がある。六本木の中心に聳え立つ、全ての元凶――ネビュラ・エージェンシー本社ビルだ。


「……聞こえるな」


 俺の耳には、風に乗って微かな、けれど無数の「悲鳴」が届いていた。


 助けて。寒い。暗い。もう一度輝きたい。  


 それは、帝によって消費され、捨てられ、異形に変えられた「かつてのスター」たちの慟哭。


「さて……仕上げといこうか。この甘い空気(エロ)の中で、空気が読めないラスボス(帝)に、引導を渡してやる」


 俺はドローンに向かって、不敵に告げた。


「みんな、チャンネルはそのままだ。 ここからは『魔王城』の攻略配信だ。……囚われのお姫様たちを、全員助け出してくるぜ」


~~~~~~~~~

#17いかがだったでしょうか?


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#18は1月10日19:20に公開です!


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