第16話 【狼狽】逆上した帝が『スタンピード』を人為的に発動。……でも、俺の『広域絶頂支援魔法』なら全部救えるけど?


「――ふざけるな。ふざけるなよ、あのゴミ虫が……!」


 東京・港区。ネビュラ・エージェンシー本社ビル最上階の社長室。最高級のバカラグラスが壁に叩きつけられ、深紅のワインが凶々しい飛沫を上げた。


 帝(ミカド)は、砂嵐が表示されている巨大モニターを睨みつけ、ギリギリと奥歯を鳴らした。つい先程まで、そこには九条ユウトの勝ち誇った顔と、帝を「人殺し」と罵るコメントの奔流が映し出されていたのだ。


「社長! 大変です! ネビュラの株価がストップ安です!」

「スポンサー企業から契約解除の連絡が止まりません! 電話回線がパンクします!」

「探索者協会から、至急事情説明に来いと……!」

「警視庁の特務課が、任意同行を求めて下に来ています!」


 オフィスには、部下たちの悲鳴のような報告が飛び交っていた。『ネビュラ帝国』の崩壊。それは、ユウトのたった一度の配信によって、音を立てて始まった。


「……うるせえ。どいつもこいつも……どいつもこいつも手のひら返しやがってえええええぇぇぇぇぇぇえええぇ!!!!!!!!!」


 帝が怒りのあまり咆哮する。底冷えするような威圧感に、走り回っていた秘書や社員たちが凍りついたように動きを止めた。つい昨日まで「勝ち組」だと自認し六本木で合コンに勤しんでた彼らなんぞでは、もうどうすることもできない状況であった。


「お前らもお前らだ! たかが『家畜』どもが騒いだ程度で、狼狽えるなあ!」


 帝は社員を叱咤し、革張りの椅子に深く腰掛けた。震える手で指を組む。彼のプライドは、まだ砕けていない。さすが、若くして、このネビュラ帝国を築いただけはある。


 ……いや、内心は砕けないように必死で「狂気」で補強していたにすぎなかった。


 彼は自らの論理を揺らがずわけにはいかなかった。弱い人間を間引いて、強い人間を生かす。それが効率的な世界運営だという論理を。


「……九条ユウト。君は大きな間違いを犯したよ」


 帝は歪んだ笑みを浮かべた。ユウトは「誰も犠牲にしない」と言った。「愛」だの「快感」だので世界が救えると言った。それがどれほど甘い理想論か、思い知らせてやる必要がある。  


 帝は手元のコンソールを操作し、裏・深層のさらに深層――地下100階層にある『封印区画』のモニターを呼び出した。


 画面に映し出されたのは、無数のカプセルが並ぶ、巨大な保管庫。その中には、夥しい数の「人間」が、管に繋がれて浮かんでいた。佐藤健太のような落ちこぼれ探索者だけではない。かつて一世を風靡し、消費され、捨てられた「元アイドル」や「引退したAV女優」たちの姿があった。


「フフ……。見ろ、美しいだろう? 彼女たちは『輝き』を失った後も、こうして世界の礎(バッテリー)として役に立っているのだ」


 帝は、モニター越しに彼女たちを愛おしそうに撫でた。華やかな芸能界やアダルト業界で使い潰され、精神を病んだり、借金を背負ったりした女たち。帝は彼女たちを「救済」と称して回収し、魔物と融合させ、永遠に魔力を搾り取られる人柱に変えていたのだ。  


 これこそが、帝が築き上げたエンターテインメント帝国の「墓場」であり、真の動力源。


「私が管理しなければ、彼女たちはただの産業廃棄物だ。……それをリサイクルしてやっているのに、愚民どもは感謝もしない」


 帝の目に、昏い激情が宿る。この地下保管庫には、まだ「未処理」の素材も山ほどある。もし九条ユウトが従順な犬になっていれば、彼が作ったAVの出演者たちも、旬が過ぎればここに並べるつもりだった。その完璧なエコシステムを……あの男は土足で踏み荒らしたのだ。


「いいだろう。……大衆は、私が用意した『平和な檻』を自ら壊したのだ。ならば、教えてやらねばな。檻の外には、猛獣がいるということを」


 帝は『封印区画』の全ロック解除コードを入力し始めた。人柱たちによって封じ込めてきた、数千体規模の災害級モンスター。そして、人柱そのものが変異した、怨嗟にまみれた合成魔獣たち。それらをすべて解放する。


「社長……!? まさか、『レベル4警戒態勢(コード・カタストロフィ)』を……!?」


「そんなことをすれば、東京が……いや、日本が終わります!」


「構わん。……愚民が私の管理を拒絶した罰だ」


 帝は狂気的な笑みを浮かべ、エンターキーに指をかけた。人為的なダンジョン・パンデミック(スタンピード)。 それを引き起こし、東京を地獄に変える。  


 そして、阿鼻叫喚の地獄絵図の中で、ユウトの「綺麗事」がいかに無力かを証明し、再び自分が「救世主」として君臨するのだ。


「さあ、ショータイムだ。……泣いて私に縋るまで、たっぷりと絶望を味わいたまえ」


カチッ。


 その乾いた音が、東京崩壊のトリガーとなった。


 ◇◇◇


 一方その頃。俺たちは、協会が手配したリムジンで帰路についていた。


「……んぅ……ユウトぉ……熱い……」

「まだ……身体の奥が……ピリピリします……♡」


 後部座席の両側から、レナとミナが蕩けた顔で寄りかかってくる。 俺は緊張感を保っているが、ふたりは我慢できないようで組んず解れつの状態だ。


 まさにカーセックスならぬ、「カー3P」状態。運転手がちらちらとバックミラーから覗き込んでいる。


 先程の『バグ魔物』討伐。俺の魔力をフィルターとして通したことで、彼女たちの魔力回路(感度)は、以前よりもさらに拡張されていた。血管が太くなると酸素が巡り健康になるのと同じように、魔力回路が太くなると支援魔法はより巡り感じやすくなる。


  今は体内に残った魔力に、車の振動が心地よく作用し、敏感状態になっている。ふたりとも終始、内股だ。触らなくても濡れているのがわかる。


「二人とも、家に着くまで我慢だ。……帰ったら、『アフターケア』してやるから」


「……ほんと? 朝まで……してくれる?」


「はいっ……! 私、盾役(タンク)ですから……耐久力には自信あります……いっぱい、受け止めますぅ……♡」


 二人のSランク美女が、潤んだ瞳で俺を見上げてくる。やれやれ。帝との戦いの続きの前に、俺の腰が砕けそうだ。とはいえ、今日ばかりはあいつも懲りただろう。


  だが、甘い空気は、突如として切り裂かれた。


ウゥゥゥゥゥゥゥ――ッ!!


 不気味なサイレン音が、東京の夜空に鳴り響く。同時に、窓の外の景色が一変した。アスファルトが割れ、ビルが歪み、街の至るところから「黒い瘴気」が噴き出したのだ。


「なっ……!? これは……!」

「ダンジョンの魔力が……逆流してる!? こんな規模、見たことないわ!」


 レナが窓に張り付く。 空が、血のような赤色に染まっていく。 そして、崩れたビルの隙間から、無数のモンスターたちが地上へと溢れ出してきた。  


 ワイバーン、ギガント・オーガ、デス・スパイダー……。 深層にしかいないはずの怪物が、渋谷の交差点を我が物顔で蹂躙し始める。


 『緊急速報。緊急速報。東京都心部にて、大規模なスタンピードが発生しました。レベル4、国家存亡の危機です。市民は直ちに――』


 スマホのエリアメールが狂ったように鳴る。 そして、街頭ビジョンがハッキングされ、帝の顔が大写しになった。


『――愚かな諸君』


 帝は、燃える東京を背景に、嘲笑っていた。


『見たまえ。これが君たちが望んだ「自由」の結果だ。私が「礎」を使って抑えていた魔物が、すべて解放された。さあ、悔いるがいい! 九条ユウトという詐欺師を信じ、私を弾劾した罪を!  君たちの命で、その代償を支払うのだ!』


 帝の高笑いが響く。 逃げ惑う人々。破壊される街。  地獄だ。  


 だが――俺は、静かに笑った。


「……はは。やりやがったな、あの野郎」

「ユ、ユウト様……? 笑ってるんですか……?」

「ああ。だってそうだろ?」


 俺はリムジンのドアを開け、赤く染まった空を見上げた。


「あいつは、こう言いたいんだろう。『俺がいなけりゃ世界は滅びる』ってな。  ……だったら、その逆を証明すれば、俺の勝ちは確定する」


 つまり。この溢れかえる数万の魔物を、俺たちが一匹残らず駆逐すればいい。 それも、誰かを犠牲にするような悲壮感漂う戦いじゃない。帝が作った「人柱システム」を嘲笑うような、最高に派手で、最高にエロティックな「お祭り」として。


「レナ、ミナ。……俺と『繋がる』覚悟はあるか?」

「ええ。いつでもどうぞ」

「はいっ! ユウト様となら、どこまでも!」


 二人の美女が、戦乙女の顔になって頷き、俺の胸に飛び込んでくる。 俺は両手で二人を抱きしめ、先ほど使った【神経接続(ニューロ・リンク)】のパスを、極限まで拡張した。 対象は二人だけじゃない。この空間に漂う、汚染された魔力すべてだ。


「帝、よく見てろよ。 お前は弱い人間を使い捨てたが……俺は違う」


 俺は二人の背中に魔力を流し込む。 彼女たちの体内炉(コア)が熱く脈打ち、快感と共に黄金のオーラが溢れ出す。


「俺のパートナーたちは、無限に快感を生み出す『永久機関』だ。お前が垂れ流したヘドロごとき、俺たちの愛液(マナ)で全部『上書き』してやる」


 俺は全魔力を解放した。今回使うのは、単なる強化ではない。ダンジョンの法則そのものをハッキングし、この地獄を俺の支配する「ハーレム」へと書き換える、支援術師の到達点。


「――システム掌握(ハック)。スキル発動! 【概念覆写・楽園(エデン・オーバーライト)】ッ!!」


カッッッ!!!!


 俺たちを中心に、眩いピンクゴールドの波動が炸裂した。それは、光のドームとなって東京の夜空へ広がり、黒い瘴気を瞬く間に侵食していく。


 毒の空気が、甘い芳香へ。絶望の悲鳴が、恍惚の吐息へ。


 帝が作った「死のルール」が消え、俺が支配する「快楽のルール」が東京を包み込んだ瞬間だった。


~~~~~~~~~~

ついに帝が暴走! 東京が大パニックに! そして明らかになる、帝の「リサイクルシステム」の闇……。(使い捨てられたAV女優たちの救済編も、この後予定しています!)


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#17は1月10日17:20 #18は1月10日19:20 公開です!

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