第8話 【聖女の堕落】「あんな卑猥なバフ嫌だったのに……」清純派聖女が、夜な夜な俺の『動画』を見て疼いているらしい

「ふざけんな! なんで俺がCランク降格なんだよ!」


 『ジャスティス・ブレイブ』のオフィスでは、怒号と物が壊れる音が響いていた。  活動停止処分を受けた彼らは、スポンサーからの違約金請求により、港区のタワマンを引き払い、郊外のボロアパートへと拠点を移していた。


「カズマが無理やり突っ込むからでしょ! 私のヒールが間に合うわけないじゃない!」  


 聖女アリスがヒステリックに叫ぶ。


「うるせぇ! お前のヒールこそ回復量が足りてねえんだよ! ユウトがいた時はもっと回復したぞ!」


「ッ……!」


 カズマの言葉に、アリスは唇を噛んで黙り込んだ。 認めたくなかった。 あの地味で、冴えない支援師の力が、自分たちを「Sランク」という夢の世界に繋ぎ止めていた命綱だったなんて。


 深夜。 メンバーとの喧嘩に疲れ、アリスは自室の安っぽいベッドに潜り込んだ。  身体が重い。魔力回路が詰まったように鈍い。 以前なら、ダンジョン探索の後でも、身体の奥から力が湧いてくるような高揚感があった。肌もツヤツヤして、化粧ノリも最高だった。  


 でも、今は違う。 肌は荒れ、髪はパサつき、何より――身体の芯が、冷たく乾いている。


「……うぅ……」


 アリスは震える手でスマホを取り出した。 検索履歴には、『九条ユウト』『支援魔法 快感』『神代レナ 関係』といったワードが並んでいる。 彼女は、昨日の「放送事故」の切り抜き動画を再生した。


『あひぃッ♡ すごいの、入ってきてるぅぅぅ!』


 画面の中で、氷の女帝レナが、ユウトの魔法を受けて喘いでいる。 その表情は、アリスがよく知っているものだった。 かつて、自分もあんな顔をしていたのだ。  ユウトの魔力が体内に侵入し、神経の一本一本を愛撫されるような、あの感覚。  当時は「気持ち悪い」「卑猥だ」と拒絶していた。清純派聖女としてのプライドが邪魔をしていた。


 でも、失ってみて初めて気づいた。 あれは「毒」なんかじゃなかった。 あれこそが、私を女として、そして聖女として輝かせてくれていた「極上の美容液」だったのだ。


「……いいなぁ……神代さん……」


 アリスは無意識のうちに、自分の胸元に手を入れていた。 動画の中のユウトの声に合わせて、自分の肌を擦る。 でも、足りない。全然足りない。 自分で触れても、あの脳髄が溶けるような熱狂は訪れない。


「……ほしい。ユウトさんの、あれ……」


 身体が疼く。渇きで気が狂いそうになる。 これは「禁断症状」だ。 一度味わってしまった極上のバフを身体が忘れられず、悲鳴を上げているのだ。


「私……間違ってたのかな……」


 アリスは動画のコメント欄を見た。


『レナ様、肌ツヤ良くなりすぎw』

『ユウトのバフって、若返り効果もあるんじゃね?』

『愛されてる女の顔だわ』


 嫉妬で胸が張り裂けそうだった。 あそこにいるべきなのは、私だったはずなのに。 私がユウトさんの隣で、あんなふうに愛されて、気持ちよくなるはずだったのに。


「……連絡、してみようかな」


 アリスはプライドを捨て、震える指でメッセージアプリを開いた。 ブロックされているかもしれない。 でも、このまま枯れていくのは嫌だ。  


 もう一度、あの熱い魔力を、身体の奥まで注ぎ込んでほしい。


『ユウトさん、久しぶり。……元気? 私、ユウトさんがいなくなって、自分の弱さがわかったの。……ねえ、会えないかな? 話したいことがあるの』


 送信ボタンを押す。  既読はつかない。  アリスはスマホを抱きしめ、冷たいベッドの中で、ユウトの温もりを想像しながら独り慰めるしかなかった。


 ◇◇◇


 翌朝。  俺はレナの手料理(意外と家庭的だった)を食べながら、スマホの通知を見て眉をひそめていた。


「……なんだこれ」


 通知欄に、元パーティの聖女アリスからのメッセージが表示されている。  内容は反省と、会いたいという懇願。  そして、最後の一文。


『私の身体、ユウトさんの魔法がないと、もうダメみたいなんです……。お願い、助けて……』


「……ユウト? なに見てるの?」


 エプロン姿のレナが、トーストをかじりながら覗き込んでくる。 俺は一瞬で画面を消し、苦笑した。


「いや。……迷惑メールだよ。昔契約してた『悪徳業者』からのな」


 俺は迷わず「ブロック」ボタンを押した。 今さら何を言おうと、もう遅い。  俺の支援(愛)は、それを全力で受け止めてくれる、目の前の最強美女だけのものだ。


「ふうん……? ならいいけど。……ねえ、今日はどこのダンジョン行く? それとも……ベッドで『深層攻略』する?」


 レナが悪戯っぽく笑い、俺の首に腕を回してくる。  ……どうやら今日も、魔力切れになるまで絞り取られる一日になりそうだ。


~~~~~~~~~~

お読みいただき、ありがとうございます!

第9話は、1月6日22:20に公開です!


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