第3話 フードコート➂
どうやらこれが彼の創作物のようです。
とりあえず内容を読んでみないことには何も分からないので、ページをめくってみたところ、早速目に入ったのはイラスト付きの料理レシピでした。
どうやらこの本は料理に関する専門書のようです。
私は試しに簡単なものを選んで作ってみることにしたのです。
材料を用意して調理器具も準備します。
まずは卵焼きを作ってみました。
油をひいて熱したフライパンの上に溶き卵を流し入れてじっくり焼いていくと、徐々に固まっていきます。
ある程度固まったところで裏返して完成です。
完成品はキレイな黄色をしていたため、思わず感嘆の声を上げてしまいました。
早速食べてみると、ふわっとした食感が口の中に広がりますし、ほんのりとした甘みもありとても美味しいです。
私は夢中になってパクパク食べ続けました。
その後、他の料理もいくつか挑戦してみた結果、どれも美味しく頂くことができました。
中でも一番気に入ったのはハンバーグでした。
肉汁たっぷりジューシーなのに全く脂っこくなく、いくらでも入ってしまいそうな程です。
私は夢中になって食べ続けました。
気がつけば、すっかり日も暮れ始めていたのです。
時計を見ると時刻は午後6時を回っていたのでした。
あっと言う間に時間が過ぎてしまったものだと思いつつ帰り支度をしようとすると、少年が呼び止めてきました。
どうやら忘れ物があるようで、取りに戻らなければならないとのことでした。
そこで私達は一度別れて、それぞれ宿泊先へと戻ることになりました。
フードコートを出て大通りに出たとき、後ろから誰かが追いかけてくる気配がしました。
振り返ると、そこには息を切らせた少年の姿があったのです。
一体どうしたというのでしょう?
不思議に思って近づいてみようとしたのですが、その時、私はあることに気がついたのです。
少年の額からは汗が流れ落ちており、明らかに体調不良の様子でした。
どうやら風邪を引いてしまったみたいです。
放っておくわけにもいかないので、とりあえず私の宿泊先まで連れていくことに決めたのです。
幸い宿泊先はここから歩いて20分程の距離ですので問題はないでしょう。
途中コンビニに寄って水分補給をするために飲み物を買ってあげることにしました。
店員さんにお礼を言ってお店を後にすると、改めて少年の方へ向き直るのでした。
そして、ゆっくりと歩き出すことにします。
道中はずっと無言でしたが、特に気まずさなどは感じませんでしたし、寧ろ心地良い雰囲気に包まれていました。
それからしばらくして、ようやく目的地へと辿り着くことができたのです。
玄関の扉を開けて中に入ると、リビングのソファーに腰掛けさせるように促しました。
そしてキッチンへと向かい、冷蔵庫から冷えたスポーツドリンクを取り出してコップに注ぐと、そのまま持っていくことにしました。
彼はお礼を言いつつ、それを受け取ってくれたのです。
その際に少し顔色が良くなっているように感じられたので安心しました。
さて、これからどうしたものかと考えていると、不意に名前を呼ばれたような気がして振り返ると、彼がこちらをジッと見つめているではありませんか。
どうかしましたかと尋ねてみると、彼は恥ずかしそうにモジモジしながらこう言ったのです。
「実はですね、お願いがあるんですけど…………」
と、非常に言い辛そうな表情をしていました。
一体どのような内容なのか想像もつきませんでしたが、とりあえず聞いてみることにしたのです。
そうすると彼は小さな声で呟くように言ったのでした。
「もし良かったら、僕に料理を教えてもらえませんか?」
どうやら、彼は料理について勉強中なのだという。
「もちろんですとも」
と快諾した私だったが、その後は二人でお互いの好きな食べ物について語り合ったり、好きなテレビ番組の話で盛り上がったりした。
「じゃあ、また明日」
そう言い残して去って行った彼の背中を眺めながら、ふと思うことがあるのです。
私は一体何をしているんだろうか?
こんな事をしている場合ではないのに……。
そもそも私は覆面の女性に協力していて、名誉顧問なのに、呑気に料理を作って、楽しく過ごしていて良いのだろうか?
そんな疑問を抱きつつ、私は深い眠りについたのでした。
翌朝になってもなお、昨日のことが脳裏から離れず悶々としていたのです。
しかし、いつまでもくよくよしていても仕方がないと思い直し、とりあえず朝食を摂ることにしました。
メニューはシンプルに食パン一枚とコーヒーだけの簡単なものですが、不思議と美味しく感じられます。
やはり自分で作ったものは格別です。
ところで今日は何をしましょうか?
考えていても始まらないですし、とりあえず外に出てみることにしましょう!
そう決めて準備を整えると早速外出することにしました。
行き先は特に決めていなかったのですが、気づけば足は自然とフードコートへ向かっているようでした。
まぁ、特に用事もないですし、せっかくなので行ってみることにしましょう。
店内に入ると、早速注文を取りに行きます。
今回はオムライスを頼むことにしました。
ちなみにケチャップ多めがオススメです。
しばらく待っていると、遂に料理が運ばれてきたのでした。
早速スプーンを手に取って一口食べるのでした。
(やっぱり美味しい!)
この味は癖になりそうです。
私は夢中になって食べ進め、あっという間に完食してしまったのです。
その後、少しだけ休憩した後、再び外に出ることにしました。
そして、気がつけば例の少年が住んでいる家に来ていたのです。
今日は天気が良く晴天なので気持ちが良いですし、そのまま散策を続けることにします。
しばらく歩いているうちに段々と空腹感を覚えてきたため、近くにあったファーストフード店でハンバーガーを購入して食べることにしたのです。
食べ終わった後、ふと思い立ち、近くの公園へと足を運んでみることにしました。
そうするとそこには大きな噴水があり、その周りを楽しそうに遊んでいる子供達の姿があったのです。
私はその光景をボーッと眺めながらベンチに座って休むことにしたのですが、そこで偶然にも少年と再会することになったのです。
彼は元気そうで何よりですが、どうやらまた体調を崩してしまったみたいです。
なので、私は看病するために再び家を訪れることにしました。
今度は一人でも大丈夫なくらいに回復したようですので安心しました。
それからしばらくの間は他愛もない雑談をしている内に時間が過ぎていったのでした。
やがて日も暮れ始めてきた頃、私達は別れの時を迎えました。
また明日会いましょうと約束を交わしてその場を後にするのですが、そこでふとあることを思いつきましたのです。
それは私がフードコートに向かうということです。
もしかしたら彼女も来ているかもしれないと考えた結果の行動なのですが、案の定彼女の姿はありませんでした。
その代わりと言っては何ですが一人の男性の姿がありましたので声をかけようと思ったところ、その人がフードを深く被っているため顔が見えませんでいた為、不思議に思い近づいてみる事にしますと突然腕を掴まれたのです。
驚いて悲鳴を上げようとした瞬間口を手で塞がれてしまいましたし、そのまま強引に引っ張られてしまった為抵抗することも出来ませんでした。
そのまま路地裏へ連れ込まれると壁に押し付けられる形になりました。
身動きが取れない状態のまま男は私に話しかけてくるのですが、その声を聞いた途端恐怖心が芽生えてきました。
何故ならその声は聞き覚えのあるものだったからです。
そう、覆面の女性と同じ声だったのです。
動揺を隠しきれない私を嘲笑うかのように男は言葉を発しました。
「久しぶりですね、ミーナ・フォン・ハイドラー侯爵令嬢様?」
その口調は普段と変わらないものでしたが、どこか棘があるように感じます。
まさかこんな形で再会することになるとは思ってもいなかった為、どうすれば良いか分からずにいると、更に追い打ちをかけるように男が言葉を続けたのでした。
「名誉顧問のお仕事はしっかりとしていますか?」
と、皮肉っぽく問いかけられ、私は戸惑いを隠せませんでした。
なぜこのような状況に陥ったのか、全く理解できなかったからです。
そんな私の様子を見て取ったのか、彼は嘲笑うように言いました。
「貴方は私が求めている人材ではないからです。私が求めているのは、もっと賢くて従順な女性なのですが、残念ながら貴方はその条件を満たしていないようですし、このままでは計画が頓挫してしまう可能性もあるので、申し訳ありませんが、ここで死んでいただきます」
冷酷非情な言葉に愕然とし、全身の血の気が引いていくのを感じたのです。
まさか私が殺されるかもしれないなんて思ってもみなかったですし、正直言って現実味が湧いてこないというのが本音です。
しかし、目の前にいる人物は紛れもなく殺人犯なのです。
しかも、その標的は他ならぬ自分自身なのですからなおさら恐ろしいものがあります。
一体どうしてこんなことに?
私は心の中で叫びました。
助けて下さい! 誰か私を助けて!
しかし、現実は残酷であり、誰も助けに来てくれないのでした。
絶望的な気持ちに苛まれていると、男は懐から小型の拳銃を取り出し、こちらに向けてきたではありませんか!
どうやら本当に私を殺すつもりらしいです。
私は必死になって抵抗しようと試みたのですが、力及ばず組み伏せられてしまったのです。
万事休すかと思われたその時のことでした。
突如として銃声が響き渡り、それと同時に男は苦痛の声を上げて地面に倒れ伏したのでした。
何が起きたのか理解できずに混乱していると、背後から聞き慣れた声が聞こえてきました。
「ミーナ様! ご無事ですか!」
それは間違いなく覆面の女性のものであり、彼女の姿を確認できた瞬間に安堵したと同時に涙が溢れてきたのです。
そして、気がつけば彼女に抱きついて泣きじゃくっていました。
その後、警察が駆けつけてきて事情聴取を受けた後解放されたのですが、その時には既に夕方になっていました。
「あの、さっきの覆面は一体、貴方と同じ声でしたよ」
私が聞くと、彼女は少しだけ寂しそうな表情を見せたあと、ポツリと呟いたのです。
「えぇ、確かに同じ声ですね」
その意味深な言葉の意味を理解する間もなく、私は意識を失ってしまったのでした。
目が覚めるとそこは自室のベッドの上で、傍らには彼女の姿があったのです。
どうやら看病してくれていたみたいです。
私は起き上がって感謝の言葉を述べると、彼女は微笑みを浮かべながら返答してくれました。
どうやら私は丸一日眠っていたみたいなのですが、身体に異常は無いようなので安心しました。
そして、ふと思い出したのです。
あの時、私に襲いかかってきた男の正体について尋ねてみることにしたのです。
そうすると彼女は深刻な表情を浮かべながら口を開いたのでした。
その内容によると、どうやら彼は美食探究委員会の一員らしく、組織内の派閥争いによって殺されることになったのだと言う。
しかし、殺害現場を目撃してしまったせいで逆に命を狙われる羽目になってしまったとのことでした。
その後、しばらくは大人しくしていたそうなのですが、最近になって再び活動を活発化させ始め、次なるターゲットとして私が狙われることになったというわけです。
それを聞いた途端に恐怖心が蘇ってきて震えが止まらなくなってしまいましたが、彼女は優しく手を握ってくれました。
その温もりを感じると、不思議と落ち着きを取り戻すことができましたので、ゆっくりと話し始めることにしました。
私はこれまでの経緯をすべて打ち明けました。
最初は信じられない様子でしたが、次第に真実だと認めてくれるようになったのです。
それからしばらくの間、二人きりで過ごした後、やがて夜も遅くなったため解散することになりました。
帰り際、彼女は一言だけ残して帰っていきました。
その言葉は今でも鮮明に覚えています。
それは、
「私達の使命は人々の幸せのために尽力することです」
でした。
この事件を機に彼女との距離は急速に縮まっていったように思います。
それ以来、私達は頻繁に連絡を取り合い、互いの知識や経験を共有することで成長していくことができましたし、それと同時に親密さも増していったように感じます。
時折、危険な目に遭うこともありましたが、その都度二人で協力して乗り越えてきましたし、そういう意味でも強い絆で結ばれていると思っています。
ある日のこと、私は重要な任務を与えられたのでした。
それは、とある国の王宮にて行われる晩餐会に参加し、そこではフードコートでの有名なシェフ達による料理が振舞われ、その中の一つであるメインディッシュを審査するというものだったのです。
正直言ってプレッシャーは大きいものでしたが、これをやり遂げることで彼女に対する信頼を得ることが出来ると思いましたし、何よりも組織への貢献にも繋がると考えましたので快く引き受けることにしました。
当日を迎えるまでの期間、私はできる限りの努力を重ねてきましたし、いよいよ当日となったのです。
会場に入ると既に多くの来賓客たちが集まっており、華やかな雰囲気に包まれていました。
そんな中、一人の男性が私のもとに近づいてきたのでした。
その男性は見知らぬ顔でしたが、とても爽やかな印象を受けました。
そして、挨拶を交わした後、彼は自己紹介をしてくれたのですが、その名前を聞いて驚愕しました。
何とその名前は
「アベル・ドランゴ」
そう、あの謎の少年の名前と一致したのです。
私は動揺を隠しきれませんでしたが、それを悟られないように努めたのです。
そんな私の様子に気づいたのか、彼は優しく微笑みかけてくれました。
その笑顔を見ているだけで心が癒されるような気がしてきます。
そして、私達は他愛もない雑談を楽しみながら時間を潰していましたが、やがて料理が運ばれてきたため、席に着くことにしました。
コース料理形式で提供され、その中でも特に印象的だったのはデザートとして出されたケーキでした。
見た目も味も最高レベルであり、思わず感嘆の声が漏れ出てしまいました。
そして、その日の夜、私は夢を見たのです。
その夢の中で私は見知らぬ土地を彷徨っていて、目の前には巨大な城塞都市がそびえ立っていました。
私は恐怖を感じながらも、その場所へと足を踏み入れていくのでした。
内部は薄暗くて視界が悪く、辺りには不穏な空気が漂っています。
不安な気持ちになりながらも奥へと進んでいくと、やがて広い空間へと出たのでした。
そこには、無数の人影が蠢いており、皆一様に怯えた表情を浮かべていました。
彼らは一斉に私の方を向くと、助けを求めるように手を伸ばしてきたのです。
私はその光景に恐怖を感じながらも、助けなければならないと思い必死になって手を伸ばしたのでした。
そうすると、私の手が届く寸前で全員が消えてしまい、代わりに一人の少女が姿を現しました。
彼女は無垢な瞳で私を見つめながら、ゆっくりと口を開いたのです。
その唇から発せられた言葉は、私の想像を遥かに超えるものであり、衝撃的な内容であったことだけは記憶に残っています。
その後、私は目を覚ましてしまったのですが、妙な違和感を覚えつつも再び眠りについたのでした。
翌朝、目が覚めると、私は既に自宅に戻ってきていることに気づきました。
どうやら昨晩見た夢は全て幻想だったようです。
安堵すると同時に、胸の奥底から込み上げてくるものがありました。
それは、彼女に対する想いなのだとすぐに理解できました。
私は決心しました。
彼女と共に生きていきたいと強く願ったのです。
そのためには、組織に忠誠を誓わなくてはならないと思いましたし、何よりも彼女の側にいるために全力を尽くそうと決めたのです。
そして、私は新たな一歩を踏み出すことになったのでした。
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