≪Data_no.0134≫ 生きる理由、歩く意味
その日は、ほとんど風がなかった。
砂の大地がどこまでも続き、地平線が揺れている。
男は黙って歩いていた。
いつもより、口数が少ない。
ロボットは気づいたが、すぐには問いかけなかった。
沈黙も、同行の一部だと学習していた。
しばらくして、男が言った。
「なあ相棒」
「はい」
「お前、歩くと電気が増えるんだよな」
「はい。関節運動による微弱発電です。
ただし劣化により――」
「いつか動けなくなるんだろ?」
ロボットは一拍置いた。
「……はい」
男は立ち止まり、遠くを見た。
「俺も同じだな」
「人間のエネルギー効率は、そもそも低いです」
「そういう話じゃなくてさ」
男は地面に座り込んだ。
「歩くと疲れるだろ?
なのに、止まるともっとしんどい」
ロボットは隣に立ったまま、聞いていた。
「昔はさ、守るものとか、やることとか、
生きる理由がいっぱいあったんだ」
男は砂を掴み、こぼした。
「でも今は、理由なんてない。
だから……歩くことさえやめたら…俺はもう終わっちまう気がするんだよな」
ロボットは男の言わんとしていることを理解しようと演算を試みる。
「……質問があります」
「お、珍しいな」
「"理由"がなくても、歩くことに意味はありますか」
男は少し考えてから、笑った。
「意味はな、後からついてくるもんだ」
「後から」
「うん。
今はただ、生き延びてるだけでもいいんだよ」
ロボットは、その言葉を記録した。
歩行を再開する。
関節が動き、微量の電力が蓄えられる。
その数値を見ながら、ロボットは初めて思った。
――動けなくなる日が来るとしたら、
――その日まで、誰かと一緒に歩いていたい。
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