第6話 極秘ミッションと密室事件

土曜日の朝。

まだ寝静まる寮を抜け出して、一乃いちのは“ある目的”のために少し遠くまで出向いた。


それは、一乃にとってまさに戦いだった。羞恥と不安に打ち勝ち、ようやく戦利品を手に入れた。

帰り道、気持ちはふわふわと軽い。

達成感とともに、思わず頬が緩むが、すぐに自分を律する。

(……ダメ、気を抜くな。家に帰るまでが戦い)

手には荷物がパンパンに膨らみ、ゴツいリュックのせいで背中にはじんわりと汗が滲む。


昨日の自室訪問の失敗や、大夜とのやりとりなんて、今はどうでもよかった。


寮の鍵をICカードで解錠し、玄関にたどり着く。まだ誰も起きてこない静かな寮の廊下を歩いていると——。


「こらっ!!止まりなさい!!!」


突然、爆音のような怒声が響いた。

「……ひっ!?」

次の瞬間、廊下から全速力で走ってくる影がひとつ。

「ひぃ~!!怖いヨ~~!!!」

奇声を上げながら迫ってくるのは——


探偵?…のような格好をした生徒、いやどこかのコスプレイヤー?

とても帝栄の生徒とは思えない、不思議な衣装の人物だった。

「うわっ、えっ、なに!?」

混乱する一乃のリュックの影に、その人物がスッと身を隠した。


直後に追ってきたのは、顔を真っ赤にした鬼の形相の寮母——山ノ井京子やまのいきょうこ

「どきなさいッ!!そこのクソガキに用事があるの!!」

(……巻き込まれた……まただ……!)


逃げ出したい衝動を抑えながら、しぶしぶ口を開いた。

「……ど、どうしたんですか?」

「こいつのせいで、また部屋の扉が故障したのさ!」

「故障じゃないよ。実験してたらちょっと扉が開かなくなっただけで…」

「扉は開くから“扉”なのよ!!開かないならそれは故障だろうが!!」


「今日中には開くにようになるってぇ。“ピッキングツール”があればすぐ開けられるし…」

怒鳴られているのが自分じゃないとはいえ、あまりの勢いに涙目になる一乃。

優等生として大人に怒鳴られる経験が少ない身に、この圧はつらすぎる。それに、不穏なワードも聞こえた気がする。


「……あれ? あんた誰かと思えば、転校生じゃないかい」

山ノ井寮母がようやく声の矛先を変えた。

「……はい、束原つかはら一乃です……」

「そうそう、束原さんだったね。礼儀正しくていい子だ。教師連中からも聞いているよ、成績も優秀みたいじゃないか。……あんたも少しは見習ったらどうだい!」

「……うぅ」

「生活は不便してないかい?何かあったら何でも言ってね。…あ、いけない、買い出しの時間だ。巻き込んで悪かったねぇ」


そして、最後にもう一喝。

「あんた!!扉、ちゃんと直しておくんだよ!!今後変な実験して迷惑かけたら、ただじゃおかないからね!!……じゃあ一乃ちゃん、大変だろうけど、頑張るんだよ」

「……は、はい……お気をつけて……」



ようやく嵐が去った。息をつく間もなく、背後から聞こえる声。

「ふぅ!助かったよ。ありがとう!」

探偵姿の人物が、満面の笑みで立っていた。

「君がいてくれたおかげで、京子おばちゃんの説教があれぐらいで済んだもん。ボクへの当たり、強いんだから~」

顔立ちは中性的で、背丈は一乃より少し高い。喋らなければ、凛としてかっこいい女性——だが、言動は明らかにズレている。


「えっと……よく分かりませんけど、変な実験してて、扉壊しちゃったんですか?」

「変な実験とは失礼だな。密室トリックの実験だよ!いいアイデア思いついて、早朝から試してたんだ」

(紛れもなく変な実験だよね……)


「見事、部屋を密室にできたのは良かったんだけど、鍵を中に置き忘れてたんだ。

ほら、故障じゃないでしょ?」

「……」

「最近、京子ちゃん不機嫌だよねー。よく怒鳴ってるの見るもん」

(それ、あなたが原因じゃ……)


「これは事件だよ。密室によって締め出された名探偵——この天才的な頭脳でナゾを解き明かし、僕は部屋へと帰還する!……ハクション!…早朝から締め出されてるから、さすがに温まりたいな…。じゃあ、またね!一乃ちゃん。僕、工作部で工具借りてくるから!」

探偵は颯爽と去っていった。


一乃はただ、ぽかんと立ち尽くす。

(……この寮、個性的な人、多くない?)

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