第3話 静かな死告
「
放課後、呼び出されたのは生徒指導室。
学年主任の
「は、はい…ありがとうございます」
授業中は私語や居眠りを一切許さず、抜き打ちで行われる小テストでは満点以外は放課後に追試。鋭い眼光で生徒を黙らせる“死神”が今は、ごきげんに紅茶とクッキーを出してきた。
「えっ……」
ギャップがすごすぎて、思考が一瞬フリーズする。
「いやあね、意外とこういうのも好きなんだよ。あ、お砂糖足りてる?」
死神の皮をかぶった紅茶紳士…?
「今回、お願いしたいのは“自宅部”の件でね」
「自宅部……?」
「そう。部活動として正式には自宅部って名前なんだけど、俗に『不登校部』って呼ばれてるね。ほら、学校来ないから」
不登校部…。授業中に生徒が口に出したワードだ。
「……え、学校に来ないのに、部活が成立してるんですか?」
田中が笑いながら、ある書類を見せてくる。そこには数人の名前と活動記録らしきもの。
「そうそう。一応正式な部活動ではあるの。なんか変な活動してるらしいけど、こっちもよく知らない。顔見なさすぎて、定期的に書類見て思い出してんの」
「そんな、適当で……」
「だって、頭は切れる子たちだから。こっちが何か言うと論破されて面倒でさ。だから黙認」
思わず言葉を飲み込んだ。タナトス、無責任すぎる。
「実はね、ちょっとしたお願いがあって。彼ら、自宅部。何言っても響かないんだよ。でもね…寮母の山ノ井さんが、ついにブチ切れまして」
「彼女に言われちゃったからには、学年主任として無視できない。せめて『週1くらいは登校してます』って見せかけを作らないとね」
苦笑混じりに田中が名簿らしき書類を突き出す。
「そこで、束原さん。優秀な君の出番というわけだ」
嫌な予感。
「え……私、ですか?」
「うん。彼らに『登校しなさい』って言っても効かない。でも、同級生が迎えに来たなら話は別かもって」
(えぇ…)
切実に断りたい。しかし、普段生徒から恐れられる教師に生徒指導室に呼び出された時点で一乃はだいぶ萎縮してしまっていた。今は紅茶紳士だけど。
…逃げられない。この空気では。
今ちらりと見た名簿には、最近見慣れた名前も書かれていた。
『
備考:登校状況はリモート/会話反応あり/全教科課題提出済)』
隣で聞く彼の声は理論で人を刺してくる。孤高で、周りの意見に染まらない、“黒い声”の持ち主なのだ。
不登校部——いちばん距離を置きたかった集団に、私はこれから足を踏み入れる。無責任なタナトスに押し付けられた自室訪問である。
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