第10話 街の幽霊

 街道を東に向かって20分ほど歩くと、商店や酒場が並ぶ街の中心地に到着した。

 外国映画で見たような、石畳の道路に噴水やベンチが置かれた中世の街並みといった風情。

 行き交う人の流れもそれなりに多い。


「…………」


「…………」


 ダルの発言で気まずくなったので、ニコくんとは手を離したまま少し後ろからついていく。

 おのれダルめ、余計なことを言ってくれちゃって。

 陰キャの私からは、恥ずかしすぎて手をつなげないんだけど!?


「お、あったあった。あの店だ!」


 ダルが指さすお店からはとてもいい香りが漂ってきている。

 人気店なのか、中では結構な人数が食事をしているようだ。


「え、と……モエさんは?」


「わ、私は、その……外で待ってる、ね」


 お腹が空かないから食事の必要はないと思うけど、そもそも人の多いお店が生理的に無理。

 前世では、誰もいない空き教室とか公園の外れでぼっち飯が当たり前だったし。

 もしくはパソコンのモニター前じゃないと、緊張して食事が喉を通らなかったんだよね……


「すみませんモエさん。じゃあ僕、行ってきます」


「うん、ここで待ってる」


 ニコくんはこちらを見ながらダルと合流し、お店に入っていった。

 そこまで気にしなくてもいいのに……私の方がお荷物みたいで申し訳ないな。


 噴水の縁に腰掛けて周囲を見渡すと、かなり活気のある街という印象だ。

 露店のおばさんが元気よく果物を売ってるし、反物を売るお店の主人は恰幅がよく整った髭面。

 荷車を引く青年は、花屋の売り子に照れた様子で声をかけている。ちっ、リア充め。


 私は一通り視線を送ったあと、ため息を吐きながら正面に目を向ける。


「さて、と……あなたは、誰?」


 3メートルほど先に、ぬいぐるみを抱えた5歳くらいの男の子がこちらを見ている。

 周囲の大人たちはその子を気にも留めず、蹴り飛ばしそうな距離で歩いていく。


 それもそのはず。

 背景が薄く透けているってことは、幽霊なんだろうね。

 左手の肘から先が千切れているから、きっと戦争で亡くなったんだろう。


 ホラー苦手だしコミュ障だけど、何故か放っておけない気がしたから……

 ゆっくりと近付いてきた男の子に、私は優しく話しかけた。


「どうしたの?」


――ママト、妹ヲ探シテル――


「そうなんだ。でもね、ここには居ないよ」


 男の子の手を握ると、その子の記憶が流れ込んできた。

 数年前、近くの村が戦場になったときに亡くなったんだね。

 小さな妹のためにぬいぐるみを取りに帰って、その時に襲われたのか……


――コレヲ妹ニ渡サナイト、眠レナイカラ――


「きみは妹思いだね」


 そういうと、男の子は嬉しそうに笑って言った。


――ダッテボク、オ兄チャンダモン――


 彼の記憶を見る限り、村は全滅してるっぽい。

 お母さんも妹も、多分生きていないだろう。


「ママと妹に会いたい?」


――ウン、パパ死ンジャッタカラ、ボクが守ッテアゲナキャ――


 その笑顔からは強い決意が感じられた。

 そうか、きみは大切な人を守りたいんだね。

 きっとその思いだけで、ここまで彷徨さまよってきたのだろう。


「……偉いね。じゃあ、会いに行こうか」


 こんな小さな子どもなのに……これが戦争なの……?

 私は涙をこらえて、男の子を抱きしめて昇天させる。

 燃え尽きる瞬間、男の子は笑いながら言った。


――アリガトウ、神様――


 私は神様なんかじゃないし、ただ燃やしただけなんだ。

 ……でもきっと、天国でみんなに会えると思うよ。

 そうじゃなきゃ、この世界は理不尽すぎるよ……!


 突然上がった炎に、周囲の通行人が騒ぎだす。

 気まずくなって噴水から離れたところに、食事を終えたニコくんとダルがやってきた。


「何かあったんですか?」


「イモエが何かしたん?」


 ぬぅ、勘がいいな、ダル。

 私はさっきあったことを説明し、炎を使って騒ぎになったことを謝罪した。


「迷惑をかけて……ごめんなさい」


「いえ、迷惑なんて。でも……モエさんは本当に優しいですね」


 私に向けられたニコくんの瞳が妙に眩しく感じる。

 ニコくんの方がよっぽど優しいのに、この子の素直さは尊すぎて国宝に指定すべきだと思う。


 なんだかいつもより頭に血が上って苦しい。

 しかも止まった心臓がドキドキ動いてる気がするよ。


 そうだった、さっきの男の子にも教えられたんだ。

 気まずさなんか気にせず、サリーさんに言われたとおり勇気を出して手を掴まなきゃ。


「あ、あのね、ニコくん! その……手を!」


 私は右手を差し出した姿勢のまま固まる。

 恥ずかしくて目を開けていられない。

 しかし、いつまで経っても握り返す感触がないんだけど。


 がーんっ! これは「ごめんなさい」ってことぉ!?

 うう、陰キャのお願いしますなんてそりゃ嫌だよね、ぐすん。


「……それは何の姿勢なの、イモエ?」


 ……え? ニコくんの声じゃない?

 というか……


「ティアさん!?」


 目を開けて顔を上げると、汚物を見るような表情のティアさんが立っている。

 そしてここは……ニコくんの部屋だ。


「わ、私……ニコくんを置いて帰ってきちゃった!?」


 どうやらタイムアップで戻ってしまったらしい。

 30分ほどでニコくんとダルも帰ってきた。

 ああ~もう恥ずかしくて二度と同じようにできないよ……

 

 ところでティアさんは、どうやってニコくんの居ないこの部屋に入ったのかな。

 ……怖くて聞けないけど。

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最強の使い魔として異世界召喚された私ですが、ジバク霊なのでのんびり死霊ライフを満喫します 倉辺るねる @kurabe_runeru

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