第7.5話 術師の独白
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僕、ニコラ・フェザールは試験の結果を聞きに職員室に向かっている。
不合格だったらどうしようって不安よりも、やっとスタートラインに立てたことが嬉しくてたまらないんだ。
「ニコ、まだ血が出てる。ちょっと見せてみ」
「大丈夫だよ、ダル。それに治癒魔法は魔力の負担が大きいよね?」
「いいからいいから。オレにやらせてよ」
親友でルームメイトのダルことダリル・キューブリックが、歩きながら僕の右肩の傷に右手をかざす。
初級治癒師のダルの治癒魔法は、ゆっくりだけど確実に僕の傷を塞いでいった。
傷口もダルの魔法もじんわりと温かい。
陽だまりみたいなダルの性格そのままだなって思う。
「いつもありがとう、ダル」
「いいって。オレはこんなことでしか返せないし」
「2人は幼馴染なのか?」
僕たちの様子を見ながら、ジークことジルクス・オルタルフが尋ねる。
ジークは僕のクラス、死霊術科1年の級長を務める辺境伯家の四男。
さっき友達になったばかりだけど、貴族なのに平民の僕にも気さくに接してくれるんだ。
「僕らが最初に会ったのは……幼年学校に入った7歳の時だっけ?」
「だな。最初はさ、特級死霊術師の息子っていうからどんな嫌なヤツかと思ってたよ」
「え、そうなの? でもダルはいつも声をかけてくれたよね?」
「みんなニコのこと避けてたからな」
ダルは可笑しそうにくすくす笑ってる。
知らなかった……僕、避けられてたのか。
「いつもへらへら笑ってたからじゃね?」
「あれは母さんの教えなんだよ。『死霊術師は悪い感情を持つと悪い死霊しか召喚できない』って言われてたから」
「なるほど、それでいつも笑顔なんだな。特級術師の言葉は重みが違うな」
ジークが妙に納得してる。
僕のこと変なヤツだって思ってるのかな?
「懐かしいな……軍の食糧庫に忍び込んだ時のこと、覚えてるかニコ?」
両親が死んで施設に入ってたダルは、いつもお腹を空かせてたよね。
「うん、もちろん」
「いやいや、特級術師の息子がそんなことしちゃ駄目だろ」
ジークが目を丸くして忠告してくれる。
やっぱり貴族だけあって真面目だな。僕も見習わなきゃ。
「ダルが友達と話してたのを偶然聞いちゃったから、僕もついていったんだ」
僕が思いついたのは「盗むのはよくないけど、せめてお腹一杯食べればいいんじゃないか」ってことだった。
食べた分は僕が死霊術師になって返せばいいなんて、当時は本気で思ったんだ。
「食糧庫までは順調に忍び込めたんだよな」
「だって、母さんに道順を聞いたからね」
「は?」
なぜかジークが片眉を上げてきょとんとしている。
僕の傷の治療を終えたダルが、ジークの背中をポンと叩いて言った。
「……当時オレも同じ反応したよ」
「計画自体、筒抜けじゃねーか!」
「そうなんだよ! 結局見つかって、罰としてダルと一緒に1か月、食堂の後片付けを手伝わされる事になったんだよ!」
あれ、なんでジークが頭を抱えてしゃがみ込んでるんだろう?
あの時母さんにすごく怒られたけど、お陰でダルと仲良くなれたから……結果的に良かったと思ってる。
「でも、オレはあれで助かったからさ。今でも感謝してるし」
「そんな……僕の方こそ、母さんが死んだ時に元気づけてくれたこと、感謝してるよ」
あの時、ダルが僕を抱きしめて言ってくれた言葉に救われたから、いつか恩返ししたいんだ。
「ダルは言ってくれたよね。『サリアンさんはいつだってお前と一緒にいる』って――あっ!」
「「?」」
僕の突然の叫び声に動きを止めるダルとジーク。
「今思い出した……試験の時、モエさんにも同じこと言われたんだよ!」
――サリーさんはいつもニコくんと一緒にいるよ――
本当に不思議な使い魔だ。
火を操ったり受肉してることもそうだけど、どうして母さんの
やっぱり――運命の人なんだ!
「そんなこと言ってたか?」
「聞き間違いじゃないん?」
ジークとダルの口調からは、疑ってるニュアンスしか伝わってこない。
「ううん、確かに言ってくれたんだよ」
「そっか、ニコがそこまで言うなら本当なんだな。イモエもいいところあるじゃん」
ダルがにかっと笑って僕の背中をポンと叩く。
ジークはまだ半信半疑といった表情だ。
モエさんは死霊なのに気遣いができるし、口数が少なくて物静かなところも好印象。
って、使い魔とはいえ女性に対してそんなこと言ったら失礼だよね。
「モエさん、死霊と話しながら『ありがとう』とか『ごめんなさい』って倒すんだよ」
「お前の使い魔、死霊と話せるのか!?」
「へぇ、そんなことできるんやね」
「いやいや、使い魔は一方的に命令するもんだろ? 死霊同士で会話なんてできるわけねぇ」
「うん、僕もそう思ってた。でも母さんが『死霊だって元は人間だったの。死んだときの無念や怨念が強いほど強力な使い魔になる。だから死霊術師は、その思いに寄り添って召喚しないといけないのよ』って言ってたから……」
きっとモエさんは母さんと同じ気持ちなんだ。
いや、もしかしたら母さんの生まれ変わりなのかも。
「でも試験中に『モエさんは大事な運命の人』なんて口走っちゃった時、モエさんは下を向いちゃったんだよね」
「あ~、それは女の子が引くヤツじゃね?」
「……やっぱりダルもそう思う?」
まずいな、迂闊なこと言わないように気をつけなきゃ。
でもこの感情が何か分かんないけど、モエさんのことはもっと大事にしたいって思う。
恥ずかしいから面と向かっては言えないけど、ずっと一緒にいてほしい。
戦うための使い魔じゃなく……
「俺様も死霊術師だから、ニコの気持ちは少し
「ありがとう、ジーク」
モエさんが生きてて本当に良かった。
思わず抱き着いちゃったのは申し訳なかったけど、なぜかすごく安心できたんだ。
だから、モエさんにはもう無茶なことはして欲しくない。
「けど、なんでニコにしか見えないんだろうな?」
「ヴィルテ先生には見えてたようだが」
ダルとジークが揃って首を傾げる。その理由は僕も知りたいよ。
でも正直なところ、僕にしか見えないっていうのはなんだかとても嬉しい。
だって、独り占めしてる感じが特別な気分にさせてくれるから。
「魔力とか才能とか関係あるのかもな。ニコも特級術師の素質があるんじゃね? 知らんけど」
笑いながら、僕に優しい言葉をかけてくれるダル。
ジークもうんうんって頷いている。
「職員室に着いたぞ。俺様が先に聞いてやろう」
「ありがとう、ジーク。友達になってくれて嬉しいよ」
「お、おう」
ジークはぷいっと顔をそむけると、足早に職員室に入って行った。
そんなに急がなくてもいいのに、本当に友達思いだなあ。
あ、そうだ。今日のことはティア姉にも言っておかないと。
ちょっと過保護だから心配するだろうけど、モエさんのことは喜んでくれると思うんだ。
僕も一人前の死霊術師を目指すからには、ティア姉に助けてもらってばかりじゃいられないからね!
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