第4話 初めての命令をお願いしましゅ

 試行錯誤の末に分かったこと。

 どうやら私が外に出られる時間は、ニコくんに触れている時間に比例してるようだ。

 しかも部屋でつないでる時間はカウントされないので、自由に動きたい時間の分だけ、外でニコくんと手をつないでおけばいいみたい。


「ふわぁぁあ~~~!? そんなの無理無理ぃぃい~~っ!」


 ……という私の心からの叫びは、ダルの「早くしないと試験受けられなくなるよー」という無情な言葉と、ニコくんの潤んだ瞳の懇願に押し切られた。

 くっ、その可愛い顔に弱いんだよなぁ。


 私が立っているこの場所は『実技教練場』という、サッカーコートくらいの野外スタジアム。


 ここまで30分くらいずっと手をつないでる。

 緊張して手汗かいてキモがられたらどうしよう……幽霊も手汗かくのか知らないけど。


「遅かったな、ニコラ・フェザール。顔が赤いようだが大丈夫かい?」


「はい、大丈夫です。ヴィルテ先生」


 ニコくんを出迎えたのは、青髪ツインテールの女性。

 童顔だけど、先生っていうくらいだから私より年上なんだろう。


「ならよかった。ところで死霊は召喚できるようになったかい?」


「はい!」


 ニコくんを見ていた先生の視線が、チラっとこちらに向けられる。

 あれ、目が合った? この人、私のこと見えてるの?


「そうか。合格したら『初級死霊術師』だ。きみが最後だから頑張るんだぞ」


 それだけ言うと、ヴィルテ先生はきびすを返して教練場の中央に歩いていく。

 そこには朝の金髪野郎が腕組みをして立っていた。


 緊張して気づかなかったけど、観客席のようなスペースに先生やクラスメイトと思しき30人ほどが座っている。


 ちょっと待って、こんな衆目の中でバトルするの!?

 幼稚園の学芸会でやった、さるかに合戦の柿役以来の大舞台なんですけど!?


「ルールは分かっているね。術師がギブアップするか、審判のわたしが続行不能と判断したら終わりだよ」


「今ここでギブアップしてもいいんだぜ、ニコラ?」


「大丈夫だよジルクス。僕が勝ってちゃんと謝ってもらうから」


 お互いが距離を取ったところで、ヴィルテ先生の「始め!」の合図で試験がスタートした。


 金髪野郎のジルクスが呪文を詠唱すると、足元の左右に白く光る魔法陣が現れ、そこから剣を持ったスケルトンが2体出てきた。

 骸骨の戦士めっちゃキモいんですけど……私、今からあれと戦うの?


「モエさん、大丈夫?」


「はは……大丈夫じゃない、かも。でも……」


 ニコくんのために、私ができることをやってあげたい。

 そのための技と知識はサリーさんから受け取った。

 あとは覚悟を決めるだけ。


「私、ニコくんのために勝つよ。だから、遠慮なく命令して」


 その言葉にぱぁっと破顔するニコくんを見て、私も嬉しくなる。

 なんだかんだ言って、使い魔補正かかりまくりなんだな、きっと。


 ニコくんから手を離して、両手で頬を叩いて気合いを入れる。

 死霊のビジュアルは苦手だけど……やるしかない。


「どうした? お前も早く出せよ」


「もう出てる。モエさんはずっと僕の傍に居てくれてるから」


 ニコくんの言葉に観客がザワつく。

 聞こえてくる言葉は「間に合わなかったのね」「まぁ落ちこぼれのニコだからな」「試験中止した方がよくない?」「ボコられるとこ見てからにしようぜ」……って、ニコくんに対してひどくない!?


 というか、やっぱりここの皆んなにも私は見えないのか。

 でもヴィルテ先生はなにも言わず、むしろ楽しそうな表情で立っているだけ。


「じゃあ遠慮なく行くからな。怪我しても恨むなよ!」


 ジルクスが命令すると、2体のスケルトンはガチャガチャと骨をきしませながらこちらに走ってきた。


「モエさん、スケルトンを倒して!」


「分かった!」


 サリーさんに教わった私なりの戦い方。それは――


「止まって!」


 私の声に反応するように、スケルトン達は剣を振り上げた姿勢でピタリと動きを止めた。

 サリーさんの予想どおり、私は死霊とようだ。


「……どうした? なんで動かないんだ!?」


 ジルクスの困惑した声が教練場に響き、同様に観客席もザワザワしている。

 そんな周囲を気にせず、私はスケルトン達に語りかけた。


「できれば、私はあなた達と戦いたくない」


――オレ達ハコノ国ヲ守リタイダケ――

――ソノタメ二術師ノ命令二従ウダケ――


 そうか、この人達は戦争で亡くなった兵士なんだ。

 志半ばで倒れた無念で死霊になってるんだね。

 彼らを安心させて昇天させる、それがの戦い方。


「あなた達のお陰で戦争は終わったよ。この国は平和になったの。もうゆっくり休んでいいよ」


――ソウカ――


 剣を構えていたスケルトン達が、剣を下ろして項垂うなだれる。

 私は「今までありがとう」と添えて、2体のスケルトン――いや、2人のに手をかざした。

 一瞬で炎に包まれた2人は、燃え尽きる瞬間、笑ったような気がした。


「……スケルトンが燃えた? 何しやがった!」


「モエさんが倒したんだ、ジルクス」


「なに言ってやがる……死霊が火を使える訳ねえだろうがっ!」


 やっぱりそれが常識なんだね。常識外れのチート使い魔でごめんなさい。


 歯軋りしていたジルクスが気を取り直したように再び呪文を詠唱する。

 今度は黄色い魔法陣から、鎌を持った3体のレイスが現れた。

 フードの付いた黒いマントの中は骸骨で、空中に浮いている姿はゲームなんかでお馴染みのビジュアルだ。

 スケルトンより魔力が高く、ちょっと手ごわそう。


「俺様を舐めるなよ。もう手加減はやめだ。行け!」


 怒りを露わにしたジルクスの命令で、3体が一斉に飛んできた。

 私の呼び掛けに応じた2体は燃やしたものの、無視した1体がニコくん向かっていく。


「終わりだ。ギブアップしろ、ニコラ!」


「!」


「ニコくん!」


 レイスが鎌を上段に構え、今にも振り下ろそうとしている。

 ちょっと、私の術師ニコくんになにする気?


「ニコくんに手を出すなぁっ!」


 レイスのマントを掴んだ左手を強く握ると、私の左手首から先と一緒にレイスも木っ端微塵に爆散した。

 左手が焼けただれて熱くて痛い。死霊なのに痛覚が残っているのか。


「モエさん大丈夫!?」

「ニコくん大丈夫!?」


 まったく同じタイミングで声を上げたことがなぜか照れ臭くて、お互い目を逸らしてしまう。

 と、とにかく無事でよかったね、あはは。

 少しずつ再生していく左手は、徐々に痛みもなくなっていった。


「何だ……今のは!?」


 そりゃ自分の使い魔がいきなり爆発したらびっくりするよね。

 レイスは鎌だけを残して、本体はサラサラ流れる煙と一緒に跡形もなく消え去った。

 この鎌はドロップアイテム的なヤツかな?


 私は右手で鎌を拾うと、呆然とヘタり込んでいるジルクスの喉元に当てた。

 観客席は水を打ったように静まり返っている。

 ……これって観客席からは、鎌が意志を持って術師を襲ってるように見えるのかな。


「ニコくん、この子どうする?」


「モエさん、傷つけちゃダメだよ!」


「うん、それは大丈夫。死霊はともかく、人間は傷つけたくないからね」


「優しいんですね」


 いやいや、きみの方がよほど優しいよ。


「何なんだよ、お前……」


 ジルクスは完全に戦意を失っているみたい。

 これ、私たちの勝ちってことでいいんだよね?


 ニコくんと私が審判を見ると、ヴィルテ先生は両手を広げ、満面の笑みを浮かべてこちらに歩み寄ってくる。


「ヴィルテ先生?」


「素晴らしいな! その使い魔の能力は戦争の在り方を……いや、この世の理すらひっくり返すかも知れんぞ!」


 ヴィルテ先生は興奮気味に捲し立てながら、ニコくんにずいっと顔を寄せた。


「ニコラ・フェザール、使い魔と共にわたしのものになれ!」

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