第3話 金髪貴族は悪役って相場は決まってる

 え、人間に戻れるってマジ!?

 ちょっとだけ期待したけど、すぐに現実を思い出して落ち込む。


「でも私、この部屋から出られないから……」


「ふふ、勇気を出して手を掴みなさい。そうしないと賢者に会えないわよ」


 いたずらっ子のように笑ってサリーさんが私から離れた。

 よく見ると、足元から少しずつ薄くなって消えている。


「サリーさん、足が……!」


「これで安心して休めるわ……ニコのこと、よろしくね」


 サリーさんの身体がどんどん消えていく。

 まさか私に力を与えたから死んじゃうの?

 サリーさんの手を掴もうとした瞬間、その身体が完全に消えて柔らかな風が吹いた。

 そんな……!


「待って!」


 私が両腕を伸ばして呼びかけた瞬間、周囲が白く光り輝き思わず目を瞑ってしまった。


「……はい?」


 目を開けると、そこにあったのはニコくんの顔。

 あれ、ニコくんの外に出てきたのか。

 きょとんとした顔も可愛いな……じゃない、近い近い顔が近いっ!

 この体勢、私がニコくんを押し倒したみたいになってるじゃん!?


 顔面が一気に熱を帯びて半開きのまま唇が固まる。

 ニコくんの頬もほんのり赤く染まった気がした。


「あばばばばっっ!」


 飛び退いた勢いでベッドから転がり落ち、後頭部を打ちつけて悶絶する。

 お、男の子との距離感が分からない……


「モエさん大丈夫ですか?」


「あ、うん……大丈夫。なんでもない。あはは……」


「ならよかった……ってダル、もう起きなきゃ遅刻するよ!」


「んあ~? おはよ~ニコ……」


 ニコくんがダルを起こして着替え始めるもんだから、見ないように慌てて壁とお友達になる。

 ちょっと待って。無邪気に着替えるショタを見られるなんてなんのご褒美デスカ!?

 まぁ私の方が恥ずかしくて直視できないんだけどね。無念。


 突然、勢いよくドアを開けて体格のいい男が入ってきた。


「まだ寝てんのかニコラ? ビビって寝小便でも漏らしたか!」


 整えられた金髪に他人を見下すような青い瞳。

 一目見て分かった、こいつは私の苦手なタイプだ。

 ニコくんが驚いた表情で、失礼な金髪野郎を見つめる。

 

「起こしに来てくれたの? ありがとう、ジルクス」


 ニコくん、それは違うと思うよ。

 本当にお人好しだなきみは。可愛すぎる。


「今日の試験は、貴族である俺様が直々に相手をしてやるから感謝しろ。死霊を召喚できない平民は逃げ出してもいいんだぜ」


「それが昨日、やっと召喚できたんだよ!」


 嬉しそうなニコくんの笑顔に、私は申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまう。

 使い魔が私でほんとごめん。


「だったら今ここで召喚してみろ」


「うん、もう召喚してる。僕の使い魔のモエさんです!」


 ばばーん! と、こちらに腕を伸ばして胸を張るニコくんと、きょとんとしている金髪野郎。

 なるほど、こいつにも私は見えてないのか。


「……お前、俺様をバカにしてんのか? それとも召喚に失敗しすぎて頭おかしくなったか?」


「バカになんてしないよ、ちゃんといるんだ。ね、ダル」


「うん、オレにも見えないけど。ニコがピンクのパンツ穿いてるって言ってたからいると思う!」


 なに恥ずかしいこと暴露してんのこの茶髪!?

 ニコくんも嬉しそうにしないで!


「……お前ら大丈夫か? まあいい。俺様の死霊術でボコボコにしてやるよ」


 金髪野郎は拳を重ねて指をポキポキ鳴らす。

 貴族のくせに口が悪いヤツだな。

 その悪役ムーブ、完全に死亡フラグだけど大丈夫?


「でも使い魔が部屋から出られないんじゃ、試験受けられないな!」


 明るく笑うダルと、その言葉に落ち込むニコくんと私。

 金髪野郎は呆れたように口を開けている。


「ははぁ……そういうことか。それが召喚できなかった言い訳かよ。ダッセェな」


「いや、彼女はちゃんといるよ!」


「使えねぇ使い魔はただのクズだろ。そんなのしか召喚できないお前もな。てかお前の母親も『特級死霊術師』なんて言われてたけど、本当は大したことないんじゃないか?」


 それは聞き捨てならないな。

 私に価値が無いのはその通りだけど、ニコくんは凄く真面目で努力家だし。

 それにサリーさんは――


「あるよ!」


 突然、ニコくんの大声が部屋に響き、ダルも金髪も驚いた様子でニコくんを見つめた。


「確かに僕は無能だけど、母さんは国を救った英雄だ! モエさんだって凄い死霊なんだ! だから今の言葉は取り消して謝れ!」


 ニコくん、本気で怒ってるみたい。

 金髪野郎はその勢いに圧倒されたように後ずさった。


「……だったら試験で証明してみろ。俺様に勝てたら謝ってやるよ」


 フン、と鼻を鳴らして金髪野郎は部屋を出て行った。

 拳で涙をぬぐっているニコくんの肩を、ダルがポンと叩く。

 私はこんな時どうすればいいか分からなくて、ただオロオロするだけ。


「そろそろ行こうか、ニコ」


「うん、そうだねダル」


 先に部屋を出たダルに続こうとして、ニコくんがこちらを振り返る。


「もし退学になっても、モエさんのことは僕が責任持ってなんとかします」


 そんな寂しそうな笑顔しないで。私なんかを庇って傷つかないで。

 あなたの使い魔なんだから、私は私の意思できみを守りたい――そう思った瞬間、サリーさんの言葉が頭の中に響いた。


――勇気を出して手を掴みなさい――


「だめ!」


 反射的に、扉を閉めようとしたニコくんの手首を掴む。

 ニコくんはそのまま廊下に出た――私と一緒に。


「「え?」」


 ここは確かに部屋の外だ……ってことは私、地縛霊じゃなくなったの!?


「モエさん……出られたんですか?」


「そう……みたい」


 ぱあっと明るくなったニコくんの顔を見て私も嬉しくなる。

 でも自分がずっとニコくんの手首を掴んでることに気づいた途端、一気に恥ずかしくなって慌てて手を離した。

 ニコくんもちょっと困ったように顔が赤くなっている。


 自分から男の子に触れるなど陰キャにあるまじき所業だね。ごめんよニコくん。


「そ、それじゃあ行きましょう!」


「そ、そうだね」


 ここから私のチート使い魔人生が始まるんだ。

 頑張ってニコくんを合格させるぞ!


 一歩踏み出したところで、ガン! と壁に鼻をぶつけて動けなくなる。痛たた。

 目を開くと見覚えのある部屋に戻っている。

 え、ナニコレどういうこと!?


「モエさん!?」


 慌てた様子のニコくんが扉を開けて戻ってきた。

 どうしよう、また引きこもりに逆戻り?

 まさか……て、手を掴んでないと出られない……とか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る