第5話 推しのVtuberから配信で告白された
◇◆◇◆◇
その日の夜、俺はいつものごとくPCのモニターを暗闇の中で付けていた。
完璧な状態でルナの配信に臨んでいると、今日は雑談配信がメインであり、学校生活の話題を話していた。
「そういえばルナ、一応学校でも友達出来たよ? 明るくて優しい子にグループに入れてもらったし!」
画面で勝ち誇ったようなどや顔を決めるルナ様。しかしながら、鍛え抜かれているリスナーたちはその程度では信じない。
『お情けでグループに入れて貰ったんだろw』
『露骨なぼっちじゃないアピールで草』
『ルナ様、見え張ってるだろ笑』
『友達いなさ過ぎて、体育の時間に先生とペア組んだ話聞きたい』
『エア友達乙!w』
「ルナリスの皆、信じてないな~!? ルナもう拗ねちゃったもんね」
そう返した後、ルナが頬をぷくっと膨らませる。最近のLive2Dモデルの進化は著しく、キャラクターの喜怒哀楽を瞬時に表現できる。
『ごめんてw』
『可愛い』
『怒ったルナも最高~!!』
コメントが盛り上がる中、ルナがふと、話題を変える。
『そういえば今日、放課後自習室で友達と勉強してたんだけどさー。途中で雷落ちて停電したんだよね、本当にびっくりしたー』
丁度、それを聞いてコメントを打とうとしていた俺の手が止まる。放課後の自習室で落雷。そして、停電。奇遇なことに俺も今日、全く同じ目に遭ったばかりである。
『俺のところも雷えぐかったわwww』
『停電はやばい』
『雷直撃かよwww』
『ルナ様、へそ取られてないか!?』
「すぐに復旧したから良かったんだけどねー、ルナ雷苦手だからビクビク震えてたし、その友達に引かれたかも……」
いや、まさかな。俺の隣に居た白凪さんも、雷に怯えて俺の服の裾を掴んだりしていた。まるでデジャブである。本当、偶然だなー……。
俺がそんな事を考えている内にもルナのトークは続いていく。
「でさー、驚いたんだけど停電中に友達に普段何してるのー?って聞いたら推しのVtuberの配信見てるって言ってたの」
「ん?」
俺の思わずそう漏らした。シチュエーションが一致していたが、まさかの今日の会話の内容まで同じというとんでもない事実。
『マジか、Vtuberファン?』
『まさか…ザワザワ…』
『これってもしかして……』
「うん、それで『誰が好きなの?』って聞いたらね……なんと、推しのVtuberが『天宮ルナ』だって言ったの!」
ルナがそう告げた途端、コメント欄がお祭り騒ぎになる。
『キタアアアアアアアアァ!!』
『うおおおおぉおおお!!!』
『目の前にいる笑』
『その友達正体に気づいてるんじゃね?』
『ルナ様身バレwwww』
今日一番のスピードで流れるコメント欄を見ながら俺はこめかみを抑える。
いやいや、待て。待てって。いったん冷静に状況を整理しよう。
今日の俺は放課後の図書室で勉強をしていて、そこで途中で白凪さんがやってきてから、途中で停電。怯える彼女と会話の際に俺は自分の推しが天宮ルナと伝えた。
先ほどのルナのトークを振り返ってみてもあまりにも条件やらシチュエーションが一致しすぎている。最早言い逃れが出来ないレベルだ。
『それで何で答えたんだ? ルナは』
『その友達、配信見てるだろw』
『エピソード的に勉強して停電中に推しの話をしてたら確定じゃん』
そんな突っ込みのコメントが流れる中、俺は頭が真っ白になっていた。
まさか雲の上の存在である推しの中身が、俺の隣の席に座っていたなんて。それも今日、放課後にがっつりと関わってしまった。
そして、動揺しているのは俺だけでなく画面の中のルナもだった。
「ルナ、どうしたらいいか分からなくて……その場は誤魔化したんだけど、明日以降どうしよ……」
そんな弱気な言葉に、ここぞとばかりにルナリスがコメントで畳み掛ける。
『もう友達に伝えるしかない』
『私がルナってその子に告白しようwww』
『ルナの学校生活いきなり大ピンチで草』
『正体バレRTA早すぎだろ』
『もう終わりだよwwwルナの平穏な学校生活wwww』
面白がるコメントで埋め尽くされているが、俺はそれどころじゃない。何か心臓がバクバクしてきたぜ……。
そんな中、リスナーたちのコメントを見ながら沈黙していたルナが、何かを決意したように小さく頷く。
「うん、明日……伝えようかな」
そう漏らしてから、更に語りかける。
「……この配信、見てるよね?」
それはまるで俺自身に言っているようだ。モニター越しに、本当に会話しているような気さえする。ルナは照れくさそうに、こう告げた。
「明日の放課後、学校の図書室でまた一緒に勉強しよ?」
その瞬間、更にコメント欄が加速する。
『うおおおおお!!!』
『ルナ様から誘いきたーー!!!』
『推しの本人に会えるとか羨まし過ぎる……!』
『前世でどんな徳を積んだらそうなるんだwww』
『本人今頃絶叫してるだろ今』
いや、絶叫というか最早、驚きすぎて何も言えない……。
俺はモニターを眺めながら椅子の上で完全に硬直していた。
そのままルナの雑談配信は暫く盛り上がりを見せて、やがてオフラインになった。
配信が終わっても俺は、半ば放心状態で、真っ暗になった画面を見つめたまま考え事にふける。
いや、本当に白凪さんがルナ本人なのか?
俺は思わず背後のベッドに飛び込み、俺は枕元に顔をうずくめる。
「……いや、白凪さんがルナな訳……何かの勘違いだ」
そう、きっとそうに違いない。世の中には似た人間が三人いるというし、偶然が何個も重なっただけ。とはいえ、転校当初から疑念はあった。
話し方も声も同じとしか思えない。
配信での声と、今日間近で聞いた白凪さんの声。
それに、決定的すぎる事実がもう一つ。
「偶然にも名前は、白凪『瑠奈(ルナ)』なのだ」
灯台下暗しとはまさにこのことである。まさか自分の名前をそのままVtuberの名前に使っているなんて思いもしない。ネットリテラシー的に、そんな大胆なことをするはずがないという思い込みが、心のどこかであった。
大手のVtuber事務所に所属してるけど、コンプラとか大丈夫なのかよ……。とはいえ、寧ろ逆を突いて同じにしたという線もある。
いずれにせよ、ここまで来たら答え合わせをするしかない。
「明日、放課後に図書室に行こう」
もし、そこに白凪さんが居たら――そして、俺を待っていたら。 それはもう、彼女が「ルナの正体」だということになる。
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