第3話 推しのVtuberの前で、本人の配信を流してみた
朝のホームルームが終わると、俺の隣の席に人だかりが出来た。白凪さんに対する興味本位やら、あわよくばお近づきになりたいと感じさせる下心が渦巻いている。気づけば彼女の机の周りは完全に囲まれてしまっていた。
いきなり大勢で詰め寄られる人気者ぶりである。
「ねえねえ、白凪さんって、なんでこの時期に転校してきたの?」
「前の学校どこ? 彼氏とかいんの?」
お前たち、そんなに質問攻めにしたら可哀そうだろ。
俺がそう思いつつも白凪さんは嫌な顔一つせずに、微笑んでいる。
見た目が良いだけではなく、心にも余裕がある天使ぶりだ。
「転校してきたのは家の事情です」
当たり障りのない回答に対して、クラスメイトが更に無遠慮に質問をする。
「その髪の色って地毛なの? めっちゃ綺麗だよね!」
「あ、ありがとうございます。……祖母がスウェーデン人なので、その影響なんです」
つまりはクウォーターって事か……。にしても、銀髪に水色の宝石のような眼。おまけにクウォーターの血筋。あまりにも属性が強すぎる。Vtuberのキャラとしても成立しそうなレベルだ。俺のようなモブが同じ空気を吸うのが申し訳なくなる美少女だな。
まぁ、俺とは接点はないだろうし、文字通り住む世界が違うと感じるのもまた事実。
先程までは、偶然が重なり舞い上がっていたが、冷静に考えて彼女が推しのVtuberの中身であるはずがない。先入観ありきで彼女を見ていたせいで、思考が一つに凝り固まってしまっていた。俺に癒しをくれるのはいつだって天宮ルナ以外に有り得ないのだ。
何かに期待すると、火傷を負うのを俺は知っている。
俺はそう結論付けて、白凪さんを囲うやかましいクラスメイト達の声をシャットアウトするべく、耳にワイヤレスイヤホンを装着する。スマホの画面をタップして、再生するのは昨夜のアーカイブである。昨日は作業をしながら追っていたので、配信を全てキチンと聞けているわけではない。
今はともかく、憂鬱な朝にあの可愛い癒しボイスであるルナの声が聞きたい。
俺は早速、再生ボタンを押す。
『ルナはいつだってみんなの事がだ~いすきだよ?』
丁度、配信途中のシーンだった。ルナがリスナーに向けて、ファンサービス的なボイスを言っている所だ。ふぅ、ルナはいつも最高の癒しをくれる。
そんな風に俺が内心で呟いていると、どういう訳か周りにいたクラスメイト達の視線が俺に集まっていた。
俺が顔を上げると、ちょうど近くにいた白凪さんと目が合う。
「っ!?!?」
何故か白凪さんが動揺したように目を泳がせまくっていた。
『ルナ、今日はみんなに甘えたい気分なんだぁ。……ねえ、ぎゅってしてくれてもいいんだよ?』
その声が流れたと同時に俺はとんでもない事に気付いた。
……あっ、やべぇ。イヤホンの接続がちゃんとできてなかったわ。
Bluet○othの無線が繋がっておらず、スマホの本体から俺の推しの声が教室中に垂れ流されていた。皆が注目してくるから、急に人気者になったのかと思ったぜ!
俺は即座に停止ボタンを押して、流れている音を止める。
……あのー、すげぇ気まずいんですけど……。
俺に向けられる「うわぁ……ドン引きなんですけど」と言わんばかりの冷たい視線の数々。 穴があったら入りたいとはこの事だ。
そして、どういう訳か動揺している人物がもう一人。
俺が横目で白凪さんを見やると、彼女は両手で顔を覆い隠していた。
「あ、う……ぅ……」
小さなうめき声を上げる彼女に異変を感じた取り巻きの女の子が心配そうに声を掛ける。
「白凪さん大丈夫?」
「えっと、その……。び、ビックリしただけ、なので気にしないで下さい!」
そう返答した後、白凪さんは突然その場を立って、逃げるようにして教室を出て行ってしまった。Bluet○othを誤爆した俺なんかよりも、よっぽど動揺している。
あの反応といい、まさか、な……。
いや、さすがにそれはないよな。俺は首を振って、浮かび上がる疑念を振りほどく。シンプルに隣の席の男子がキモすぎて絶望している線だって拭えない。
てか、冷静に考えてそっちのほうが、可能性が高いだろう。
うん、そうだ。きっとそうに違いない。
◇◆◇◆◇
その日の夜。
俺は学校で『推しの声垂れ流し事件』を起こしたにも関わらず、PCモニターの前で日課のように配信を楽しんでいた。あの時は本当に恥ずかしくて死にたい気分だったけど、やはり推しの配信を見ない事には一日が終わらない。画面の中では天宮ルナがいつものように雑談をしている。丁度、俺にとってタイムリーな話題に入ったところだった。
「そういえば最近、転校して学校とか含めて新しい環境になったんだけどさ……ルナ、人見知り過ぎて友達とかと上手くやっていける自信ないんだよね……」
そんなルナの言葉をきっかけに俺は脳裏に白凪さんの転校初日の時のことを思い浮かべた。彼女は男女問わずに質問攻めにされていたが、それとなく受け答えをしていた。
『俺も友達いないからなかーま!(^^)! 』
『新しい環境に馴染むの大変だよな……』
『ワイも最近転職したばっかりだから気持ちわかるで』
『友達いなくても、沢山リスナーおるし、へーきへーき』
そんな励ましは同情の声が流れる中、一部の弄りが好きなリスナーが茶々を入れる。
『クソ陰キャw!』
『友達0人のVtuber最高~!!』
『ワイはルナの事信じてたで笑!』
『やーい、ぼっち! ぼっち!』
流れるコメントを拾ったルナがむきになって声を上げる。
「はぁ~? ぼっちじゃないもん! 皆と一緒にしないでよ~!」
怒り眉に併せて、ぷくーっ、と頬を膨らませるルナ。
その表情は反則っつーか、今日も可愛すぎるだろ……。
あまりにも可愛い表情の変化に、コメント欄が沸き始める。
「ルナは別に最悪友達とかいなくても平気だもん。だって、孤高だから」
どや顔で強がって見せるその姿に、俺は小さな笑みをこぼした。
まぁ実際に、ルナの前世の話にはなるが、中学時代はハブられていたと言っていたので、あながち間違いではないかもしれない。
配信では堂々と喋っているが、意外と彼女は不器用な所が多いからな。
にしても……今日の転校生、ルナに凄く似ていたような……。
可能性は低いけどもし、本人ならとんでもない事だ。
明日とか、機会があったら二人きりで喋ってみるか。
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