第2話 転校生の雰囲気が推しのVtuberにそっくりな件について 

 いつも通りの夜配信。俺は、ルナの雑談をBGM代わりに課題を片付けていた。

 俺とて、以前はルナに認知されていた古参リスナーであるが、いまや大人気となった彼女はきっと俺のことを忘れているであろう。でも、俺はただのリスナーだから、彼女を応援できればいい。そんなことを考えながら配信を聴いていると、不意に彼女が何かを思い出したようにこう切り出した。


「みんなの一つ、近況報告があるんだけど……」


 俺も一瞬手を止めて、モニターにいる彼女に目をやる。


「実はルナ、最近お引越しをしたんだ。それに伴って学校も転校する事になったの。変な時期の転校だから友達出来るか不安なんだよね」


 ルナの言葉と共にコメント欄が加速していく。


『引っ越し先ってどの辺?』

『俺の学校に来てくれよ~~』

『リアルで友達になってくれ!』


 リスナー達の欲望がコメント欄に流れる中、ルナはいたずらっぽい笑みを浮かべて言う。


「もしかしたら明日以降、君の教室の隣の席に座ってるのが、ルナかもしれないね?」


『確定演出きたーーー!!!』

『明日学校行くの楽しみ過ぎるだろwwww』

『妄想が捗る。助かります!』

『隣にいる奴押しのけて、ルナ様の場所空けとくわ笑』

『ルナ様が転校してきたら、俺の灰色の学校生活がバラ色に……』

『は? 俺の隣は壁なのだが!?』


 ルナの軽いジョークにリスナー達の間で歓喜の渦が起こる。

 にしても、隣の席か……。

 脳裏でルナ様が俺の隣の席に座るのを想像してみる。

 横目で彼女を見やると、目の合った彼女が微笑んでくれる。


 ……うん、悪くないな。


 俺の教室での位置は窓際の一番後ろである。その隣の席は、一応空席がある。

 まぁでも、そんな奇跡のようなことが起こるはずもない。そもそも身バレのリスクもあるし、転校すること自体がブラフの可能性だってある。


「……まぁ、絶対にないだろうな」


 遥か雲の上で輝くルナを、せいぜい地上から見上げるのが精一杯なリスナーの俺では互いが交わるなど有り得ない話。とはいえ、彼女の些細な言論が、明日学校に行くのが憂鬱な俺にほんの少しばかりの理由を与えてくれたのも事実。

 俺は良くも悪くも、ルナの手のひらで転がされているリスナーの一人である事を再認識する。


「皆、明日も学校とかお仕事頑張ろうね! では、乙ルナでした!」


『乙』

『乙ルナ!』

『さらばじゃ』


 俺は彼女の言葉を胸に、そっと配信を閉じる。隣の席にルナが居て欲しいなんて、欲張りだ。画面の向こうに彼女が居るだけで、それだけで十分なのだから。


 と、思っていた時期が俺にもありました。

 何故なら————。


 翌日の朝。ゴールデンウイークが明けて、弛緩した空気がただよう教室に、チャイムの音と共に入ってきた先生がこう告げる。


「おーし、お前ら席に着け。今日は、この時期には珍しいが、転校生を紹介する」


 は? 転校生?

 そのワードを聞いて、俺は即座に昨日の配信のことを思い出していた。


「え? 転校生? この時期にか?」

「珍しくない?」


 教室がざわつく中、俺はまさか、有り得ないだろうと高を括る。

 とはいえ、脳裏にはルナの姿と言葉がちらつく。 


「入ってきていいぞ」


 先生の合図と共に、教室の引き戸がガラガラと音を立てながら開かれる。

 そして、小さな足音と主に、一人の女の子が教室に入ってくる。

 そんな彼女の姿を見て、俺は言葉を失った。


 窓から差し込む陽光に照らされている銀色のロングヘア。肌は白く、長い睫毛の奥にある水色の瞳は透き通っている。まるで二次元の女の子と錯覚させるほどの美少女。

 更に言えば、彼女の容姿や雰囲気はそこはかとなくVtuberの「天宮ルナ」に酷似していた。


「えっと、白凪瑠奈 しらなぎるなと言います。人見知りですが、是非仲良くしてくれると嬉しいです」


 挨拶と共にペコリとお辞儀をする彼女。圧倒的な美少女の登場にざわめく教室。

 ルナ……。俺は思わず彼女の名前を内心で呟いた。

 いや、マジで何が起こってるんだ? これ現実なのか?

 既に俺の心臓はバクバクと鳴り響いていた。


 俺の動揺なんて知る由もない先生が、淡々と彼女の席の場所を伝える。


「白凪の席は……、一番後ろの窓際、真城の隣が空いているな。あそこを使ってくれ」


 先生が指をさした場所に、白凪さんが銀髪を揺らしながら歩み寄ってくる。クラスメイトの視線を集めながら、俺の机の横で立ち止まり、俺の方に笑顔を向けてくる。


「宜しくね、真城君!」


 ……なんてことだ。声もルナにそっくりである。

 実際に近くで聞いてみて、改めて実感をする。

 これはもしかして、本当に本人なのか!?


「お、おう……」


 俺が動揺交じりに相槌を打つと、白凪さんは隣の席に鞄を置いて、椅子に腰を掛ける。

 ほのかに甘い香りが鼻孔をくすぐり、それが俺の平穏な日常生活を侵食すると予感させた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る