阿貴、教室へ
一方その頃。
宇都宮阿貴は、ようやく目的地である青碧学園に降り立ち、足早に校舎内を進んでいた。
置いていかれた形になった友人に、一言文句を言ってやろう。
そんな軽い不満を胸に、目指す教室へと向かう。
(……今日は、なんだか落ち着かないな)
理由は分からない。
ただ、朝から細かいことが噛み合っていない感覚だけが残っていた。
廊下を曲がり、目的の教室が見えてくる。
その手前で、阿貴は足を止めた。
――妙だ。
教室の前に立った瞬間、はっきりと分かる。
中の空気が、明らかにおかしい。
近づくにつれ、その違和感の正体が見えてきた。
自分の席のあたり。
そこを中心に、人だかりができている。
さらに一歩、踏み出す。
そして、視界に飛び込んできたのは――
互いに一歩も引かず、睨み合っている二人の姿だった。
「………………」
阿貴は、思わず言葉を失う。
一人は、自分と同じ学校の制服を着た、かなり背の高い男。
見間違えるはずもない。
今朝、自分を駅で置いていった張本人――高杉秀人だ。
そして、もう一人。
紺色のコートを脱いだ下に、明らかに女子と分かる私服姿。
スカートのライン、タイツに包まれた脚。
どこからどう見ても、他校の女子受験生だった。
……はず、なのに。
阿貴の視線は、そこから動かなくなった。
(……え?)
胸の奥が、ひやりとする。
その少女の顔立ちが――
あまりにも、自分に似すぎていたからだ。
鏡を見ているような錯覚。
輪郭、目元、雰囲気。
細部は違うのに、全体の印象が、どうしても重なる。
理解が追いつかないまま、阿貴は立ち尽くす。
「……えっ……」
先に異変に気づいたのは、正面を向いていた西条唯貴だった。
いきなり視界に現れた、
自分と瓜二つの少年。
その存在を認識した瞬間、唯貴の大きな瞳が、限界まで見開かれる。
その表情の変化に気づき、
秀人が何事かと振り返った。
そして。
そこに立っている、もう一人の見覚えのある顔を見た瞬間、
今度は秀人が、言葉を失った。
教室の中心で、
三人の視線が、初めて交差する。
何も知らずに踏み込んだ阿貴。
怒りと混乱の只中にいる唯貴。
状況を理解できずに立ち尽くす秀人。
受験前の朝の教室は、
静まり返ったまま、次の一瞬を待っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます