高杉秀人 青碧学園前
紺碧町駅のホームに、ひときわ目立つ影があった。
電車を降り立った一人の大男――身長一九〇センチという長身は、人ごみの中にあっても頭一つ抜けており、意識せずとも視界に引っかかる。
その本人は、周囲の視線など気にも留めず、無造作に改札へ向かって歩いていた。
本来であれば、今日は友人と連れ立って青碧学園へ向かう予定だった。
だが、待ち合わせの時間になっても、その姿は現れなかった。
何度か周囲を見回し、スマートフォンに視線を落とし、それでも状況は変わらない。
結果として、秀人は一人で電車に乗り込み、こうして先に学園へ向かっている。
いつもなら、逆だ。
遅れるのは決まって自分のほうで、友人を待たせる側に回ることなど滅多にない。
その友人は、生真面目を絵に描いたような男で、約束の時間を破るなど想像もつかなかった。
それが、今日は事情が違っていた。
待ち合わせ場所も、時間も、前日に散々確認させられている。
間違えようがないほど念入りにだ。
だからこそ、秀人は深く考えなかった。
自分が相手を待つ立場になっている。
ただ、それだけの違い。
「……先に行った、か」
誰に聞かせるでもなく、小さく呟く。
短絡的だとは自覚している。
だが、連絡を入れて確認するという選択肢は、なぜか頭に浮かばなかった。
どうせ、あの性格だ。
何かあったに違いない。
そう結論づけ、秀人は改札を通過した。
駅を出ると、冷たい空気が一気に肌を刺す。
二月の北海道。
吐く息は白く、足元には踏み固められた雪が残っている。
学園へ続く道を歩きながら、秀人はポケットに手を突っ込み、視線を前に向けた。
緊張がないわけではない。
だが、それを表に出すのは性に合わない。
試験だろうが何だろうが、やることは変わらない。
受けて、書いて、結果が出る。
それだけだ。
「ま、なんとかなるだろ」
根拠のない言葉を吐き捨てるように呟き、
秀人は、青碧学園の門へと足を向けた。
この時、彼はまだ知らない。
ほんの小さな行き違いが、
後に何度も思い返すことになる一日の始まりだったということを。
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