西条唯貴 試験会場にて

同じころ。

西条唯貴さいじょうゆうきは、まだ人もまばらな教室で、一人席に座っていた。


試験開始までは、まだまだ時間がある。

だが、早すぎる到着についても、遅刻するよりはましだと、彼女は後悔していなかった。

むしろ――

家にいたほうが落ち着かない。

そんな心理のほうが強かった。


受付を終えた教室には、すでに暖房が入っている。

それでも、空気の底には、まだ冷たさが残っていた。

唯貴は、膝の上でそっとスカートの裾を整えた。

派手さはないが、清潔感を意識して選んだ服装だ。

試験の場に相応しいかどうか、その一点だけを考えていた。


家を出る前にも行っていた持ち物確認を、意味もなく何度も繰り返してしまう。

受験票、筆記用具。

机の上に整然と置かれたそれらに、何度も目を落とす。


やることは、やった。

その確信はある。


ここで過ごす三年間のビジョンも、彼女の中には、すでにはっきりと思い描けていた。

それでも――

胸の内は、未だに落ち着かない。


時計の針の音は、こんなにも大きく響くものだっただろうか。


誰一人として無駄話をする者はおらず、教室には静かな緊張だけが満ちている。

その中で、唯貴は昂った気を鎮めるように、そっと息を吐いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る