宇都宮阿貴 試験当日の朝

試験当日の朝。

スマートフォンの目覚ましの音に起こされ、宇都宮阿貴うつのみやあきは、眠い目を擦りながらその身体を起こした。


よく眠れた、という実感はない。

試験前日の夜という緊張感の中で、何度も寝返りを打ち、浅い眠りを繰り返した感覚だけが残っている。

布団に入ってから今に至るまでの時間、それだけを切り取れば、睡眠時間そのものは過不足なかったはずだった。


それでも、身体は正直だ。


早い時期から、青碧学園一本で受験する決心を固めてから。

そこそこ高い偏差値を維持することにも必死だったし、それに向けてするべきことは、それこそやり尽くしたつもりでもあった。


それでも――

いざ本番を迎えるとなると、話は別物だ。


かつて通っていた空手道場の試合でも、所属していた野球部の大会でも。

これほどのプレッシャーを感じたことはなかった。


自分で止めたスマートフォンの時計に目を通す。

試験開始には、十分間に合う時間ではある。


だが。


友人と待ち合わせて、一緒に青碧学園に向かう約束は、どうやら果たせそうもなかった。


「……やってしまった」


そんな呟きが、部屋の虚空に消える。

いつもなら、こんなことはなかった。

友人との待ち合わせで遅れるのは、決まってその相手のほうだったはずだ。


だが、考えていても仕方がない。


阿貴は、まだ温もりの残るベッドから降り、普段通りの学校の制服に着替えた。

ワイシャツのボタンを留め、ズボンを履き、学ランに袖を通す。

場所を除けば、まるでいつもの登校と変わらない格好だ。


布団を出た時から感じていた寒さが、外はさらに厳しいことを思い出させる。


机の上に置かれた受験票、財布、筆入れを確認し、鞄に放り込む。

少しオーバーサイズだが保温性が気に入っている、普段使いのロングコートに袖を通し、鞄を持って玄関へ向かった。


行き先を除けば、普段の登校と何一つ変わらない。


「多分、アイツ……先に行っちゃってるよな」


誰に聞かせるでもなくそう呟き、

宇都宮阿貴は、家を出た。

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