第二話 大丈夫です。勇者ですから

「脈拍停止、対光反射見られず…残念ですが確実に死んでいます」


「そうですか…王様になんと言えば。次の召喚の儀に必要な魔力が溜まるのは?」


「40年後ですかね。国中の魔石と魔術師を使って早めたとしても30年後かと、勇者様の死は残念ですが、次に期待するしかないですかね」


 私の周囲に四人の生体反応が確認できた。

 会話の内容の主は私が死んだという状況と判定。

 自己メンテナンス中に何かしらの誤解が発生してしまったみたい。

 メンテナンスを中断し、身体制御を再開しなきゃ。


「ゆ、勇者様が目を覚ましたぞ!」


「どういうことなの…」


「い、生き返ったの?」


「体温が戻っている…脈拍も…問題ありません」


 四人は各々驚きを隠せないみたいで、医者が急いで私の身体をペタペタと触って確認していたが、どうやら誤解は解けたのかな。

 どうやら誰かがメンテナンス中の私に触ったみたい。

 私の周りには今まで研究員しか居なかったから特に気にしてなかったな。

 メンテナンス中はCPUだけを動かしているから、一切合切機能を止めていたけど、これからは脈拍再現機能の停止はしないで、一部の機能も付けっぱなしで排熱を用いて体温を維持する方向にしよう。


「どうやったの?」


 唖然とする面々を横目に上体を起こしていると、その中で私と似たような年齢くらいのメイド服を来た女の子が声を上げた。


「どう…ですか?低体温症が酷いだけですよ、脈拍も薄いって医師に言われたことがあります」


 少し無理がある言い訳だけど、とにかく誤解を解くべく動かなきゃ。


「それにしても…」


「本当に大丈夫なのですか、勇者様」


 日記を検索、勇者と呼ばれる存在はその多くは超常的な能力と身体を持つ人や与えられた人たちのことを差す。

 その中には死を操る人間も含まれている。

 つまり…。


「私は大丈夫。勇者ですから、このくらい不思議じゃないですよ」


「まぁ…勇者様が言うなら……」


「勇者様なら…」


 その場は私が勇者という立場に居たから収まったようなもの。

 どうやらこの称号はとても便利で、これからも積極的に使っていきたい。

 そして部屋から白衣の男性と衛兵のような鎧を纏った男性は出て行き、メイド長のイバルディと一人のメイドが残った。


「あの、勇者様…一つ聞きたいのですが良いですか?」


「質問をどうぞ」


「なぜ私の作ったお菓子をお捨てになられたんですか?」


 彼女、質問する直前までは心拍数が一定だったが、その後は心拍数が上がり目に涙を浮かべていた。

 なるほど、あのお菓子は彼女が作ったモノだったの。

 しかも、その彼女に行為がバレてしまった。

 この場合どう返すのが正解なんだろ。


「それは…すみませんでした。私の住む世界では飲食はほとんどしないもので…ですが、だからと言って捨てるなどとは配慮に欠けていました」


 召喚した相手の世界を観測できる技術や知識は無さそうだったから、とりあえずすぐバレなそうな嘘を混ぜて返答する。

 するとそれを聞いた彼女は何か言いたそうだったが、結局無言で去ってしまった。

 私も人間としての思考回路を精巧に模倣した思考能力を持っているけど、やっぱり人間は良く分からない。


「謝ったのにな」


「そういえば、話は変わりますが戦闘訓練が丁度一時間後から始まります」


 今まで黙っていたイバルディは、あのメイドが居なくなると口を開いた。

 戦闘訓練とはそのままの意味だろうか。

 確かに魔王を討伐するとなれば訓練は必要だよね。

 日記の中の人物は訓練描写をかなり省いているみたいだけど、そういったものがあるのは確認できたので予想は付いていた。


「時間となりましたらお呼びします。その間王宮を見て回られたらいかがですか?」


 その提案には是非とも乗りたい。

 私自身この世界に興味が出て来た。

 新たなエネルギー資源を見つけるチャンスでもありそう。


「案内してくれますか?」


「えぇ、勿論喜んで」


 そしてあの時みたいに手を差し伸べてくれた。

 私は手を取って彼女に引かれるがまま部屋を出る。


「ここは何があるんですか?」


「ここは魔術師たちが研究を行う場所です。主に魔石や各国から取り寄せた触媒が置かれていて、今は居ませんがいつもなら魔術師たちが意見を交換し合う、ある意味魔術師たちの憩いの場として活用されています」


 魔術師――異世界転移をしてしまった人たちの日記に必ずと言って良いほど出て来る集団で、魔法という技術を扱う。

 魔石は万能なモノと書かれていることが多く、私が次点の燃料として目を付けているのも魔石だ。


「少し見て良いですか?」


「勿論です。私自身も魔術師の家系でしたので、少しの説明は可能です」


 私は部屋に入り、机の上にあった紫色の石を手に取る。

 接触分析によると未知のエネルギーと出た。

 見た目はただの小さな石なのに、とんでもないエネルギーが濃縮されているようだ。


「それは魔石ですね。魔石は天然由来と生物由来があって、天然由来の方が純粋な魔力を抽出することが可能です」


 魔力もそうだ、どの異世界の日記も魔力が出て来る。

 それは万能だが、私の目を通したら電気と変わらないエネルギーの波が見えた。

 電気と似ているなら、私の燃料になる可能性も考えられる。


「魔力は宙へ漂っている時はほとんど目に見えない存在なのだけど、目に魔力を込めることでそれらを見ることが出来るの。つまり魔力が濃縮された魔石は、そんなことをしなくても見えるほど濃くなっているわけなの」


「イバルディメイド長は魔法が好きなんですか?」


 彼女が魔法に関してを語っている時は、少しだけ声色が明るく、敬語が乱れることが多いので、試しに質問をしてみた。


「え?!いや、そんなこと……少しだけど、好きです。幼い頃は魔術師である父が誇りだったくらいで…」


「どうしてメイド長をしているんですか?」


 質問攻めになるけど仕方ない。

 あと五日間しかこの世界に関しての情報を知れる機会が無いかもしれないから、彼女から出来るだけ多くの戦力になりそうな情報を搾り取らなきゃ。

 それは些細なことでも、関係が無さそうなことでも全て。


「どうして…なのかな…」


 彼女はあの仕草をしながら考え込む。

 どうやら彼女にとってこの生活に苦は無さそう。


「特に理由は無いと思います。でも、魔術師と同じくらい、物語に出て来るメイドという職業が輝いて見えたんだと思います」


 そしてアッという間に時間が経ち、食堂と図書室をチラッと紹介しただけで王宮の案内は終わってしまった。


「また明日もお願いできますか?」


「えぇ勿論」


 初対面は堅苦しい女性ってイメージだったけれど、話をして打ち解けると背が高く仕事熱心ってだけで、ただの女の子だった。

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