閑話その一 メイドの受難
どうやら今日行われた召喚の儀でやっと勇者が召喚されたらしい。
まだ詳しいことは聞いていないけれど、数時間前に勇者へおやつを振舞うように言われてタルトを作り、紅茶を淹れたので召喚されたのは確かだ。
それらを持って行ったのは私のメイド長のイバルディさん。
彼女は背が高くて清廉で、国外からも求婚の手紙が来る程の人気っぷり。
そうだ、私彼女に庭のお手入れを頼まれてたんだ。
しかも勇者が居る部屋の窓の下の低木だ。
「なに…これ」
庭の小屋から剪定道具を引っ張り出してその場所に行くと、低木にクリームや果物が撒き散らされていた。
それに周辺からほんのりだけ私の淹れた紅茶の匂いも漂って来ていた。
「許せない…あの勇者、とんだひねくれ者だわ」
そういえばイバルディさんが勇者の付き添いとして選ばれてた。
こんなことする人間に彼女ともあろう人が時間を取られる筋合いはない。
私は剪定道具を半ば投げ捨てるように置くと、すぐに勇者が居る部屋まで走った。
すると、扉の隣にイバルディさんが立っているのを見つけた。
「イバルディメイド長!」
私は息を切らせながら彼女に話し掛ける。
「どうしたのですかそんなに急いで…勇者様が居――」
「その…勇者様にお申し付けたいことが!」
「それは明日になさい、今勇者様は眠っておられます」
「でも…!」
「……」
「う……わ、分かりました…明日にします」
私の願いとは裏腹に、いつもより厳しい声色で返答をする彼女の気迫に私は耐えきれず、つい引き下がってしまった。
でも、勇者はここ一週間は王宮に滞在するみたいだし、明日の朝イチに言ってやる。
今日は仕事も無いみたいだし、もう寝てしまおう。
その日は起きた出来事に反してよく眠れた。
最近は王様主催の式典等も多いから来賓用に料理を作ることが多かったからかな。
「ふぁあ……そうだ、勇者に…」
ベッドの上で一つ伸びをして、パジャマからメイド服に着替え、一通りの身支度を終わらせてから勇者の部屋に向かう。
「勇者…様。起きていらっしゃいますか?」
扉を四回ノックして声を掛けるが、それから一分程経っても扉が開く気配は無い。
再度同じようにノックをして待つが出てこないので、しびれを切らして扉を開けることにした。
「失礼します」
扉を開けて部屋に入ると、私と同じくらいの年頃の女の子がベッドの上に布団も掛けずに横たわっていた。
こんな子が勇者だなんて…。
私は彼女の境遇を想像して、一瞬昨日のことを許してしまいそうになったが、踏み止まってせめてあんなことをした理由だけでも聞いてみようと考えた。
「勇者様…起きてください」
もしも怖そうな大人の男性だったらこんなことしないけど、でも同じくらいの年代の女の子だったら起こしても怒られないかな?
「え、冷たっ…」
見たことの無い半袖の服を来た少女の腕を掴んで起こそうとしたその時、彼女の身体が凄く冷たいことに気付いた。
慌てて首元に指を添えてみると脈が無い。
口元に耳を近付けても息をしていなかった。
「嘘…死ん…でる?」
私は急いでこの部屋の隣に居るイバルディメイド長を起こす為、部屋から出て隣の扉をノックする。
「イバルディメイド長!」
「朝からなんです?騒がしくして、貴方らしくありませんよ」
ノック一回で扉が開いたことに驚く暇も無く、私は言葉を吐いた。
「大変です!勇者様が!」
「え?」
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