異世界転移した少女型ロボット【ソメイ】の勇者体験日記

アスパラガッソ

第一話 少女型ロボット【ソメイ】

 ≪システム起動――機体名【ソメイ】の起動に成功しました≫


【ソメイ】――私の名前だ。


 暗闇に浮かび上がった文字はすぐに消え、視界が晴れる。

 以前メンテナンスをした、薄暗く私と同じ形態の機械が並んでいた部屋とは違って、そこには日本ではあんまり見掛けない洋風な建築が広がっていた。

 更に、普段は一人の研究員が二十人程に増えていて、恰好もこの場に合う煌びやかな貴族の服装をしていた。


 まるで日本ではなく、英語圏の文化に則したような光景だと、私の予測検索で出てきたがまさにその通りだと思う。

 でも海外に移送されるとは一言も聞いていないから、もしかしたら研究員が行った実験の可能性がある。


「おぉ!遂に召喚に成功したぞ!」


「王様!やりましたね!」


「パパ、あれが?」


「そう!あれが我々の国…いや、我々の世界を救ってくださる勇者様だ!」


 一人のリアクションを皮切りに、二人、三人、四人と声を上げ始めた。

 すぐに場は騒がしくなり、一人一人の話を分析し辛くなってくる。


 会話から現在置かれている状況を分析する機能を使い、現状の整理を開始。

 まず私を勇者様と呼ぶ人が五人、召喚という単語が複数出て来るので検索条件にそれらを加え、更にこの状況の類似データを私のデータベースで探してみる。

 すると、主にネットで投稿されている異世界転移という現象に巻き込まれた人たちの日記が多くヒットした。


 つまり私は『いつの間にか異世界転移をしてしまった』というのが一番この状況に当てはまる答えだった。


 私の身体モデルと思考モデルは17歳の女の子だ。

 つまり、ここで検索すべきは17歳くらいの子が書いた日記が妥当と判断して、次に条件に異世界転移と17歳というキーワードを入れて検索を掛ける。


 16361モノ膨大な結果がヒット。

 その中で一番多かったリアクションをやってみようと思う。


「ここはどこ?私を家に帰して!」


「勇者様が喋ったぞ!」


「言葉が通じる!」


 私のリアクションに触れ、更に音量が上がる室内で『コホン』と咳払いをして、周りの人たちに王様と呼ばれていた、豪華な椅子に深くドッシリと座る白髭を生やした大男が話し始めた。


「我々の召喚に応じてくれた勇者様よ!この世界の敵、魔王を打ち倒してくれた暁には、勇者様の望むことを一つだけ叶えてみせよう!勿論家に帰すことも可能だ!」


 大げさに手を広げた王様に対して盛り上がるこの場であったが、『望むことを一つだけ叶えてみせよう』という誘い文句は大抵罠だと思う。

 以前詐欺にあった研究員が、『脈絡も無く甘言を繰り出してくる相手が言っていることは、基本的に信用しない方が良い』と言っていたので少しカマを掛けてみる。


「少し良いですか。貴方が言った『望むことを一つだけ叶えてみせよう』という言葉は本当なの?」


「あぁ勿論だとも!我々の大いなる魔術師の手によれば可能だ!」


 王様は自信満々にそう答えて、チラリと私が立っている場所の右奥を見た。

 確かそこには魔術師が被るようなとんがり帽を被った集団が居たハズ、あれは本当に魔術師だったの?

 ただ、それは良いとしてその集団から動揺したような声が聞こえたのが気になる。


 そもそもその叶える能力があれば、それを使用して魔王の討伐も簡単に可能なのではないのか。


「一つ提案です。その叶える力を使って魔王を討伐するのが最も楽だという結果が出ましたので、そちらを実行した方が良いと判断します」


 私が提案をすると、場が静まり返った。


 また返答に失敗してしまったのかも。

 以前も私を高校に通わせるという実験を実行した際に、このように場が静まり返ることが沢山あった記憶がある。

 でも、こっちの方が絶対的に良いのに。


「……あぁ!そうだったそうだった…その叶える力は魔王の力を使わないと出来ないんだ。つまり、魔王を討伐してくれたら、その力を使って願いを叶えてあげると言っているんだ。これで意味は分かったかな?」


 王様の動きと体表に染み出す汗を感知――声色の不安定さがみられる。

 そして極めつけは前述した証言とはズレた回答。

 あの話が嘘だという可能性が疑心から確信に変わった。

 でも、私の検索結果によると、魔王を討伐するのが最もこの世界からの脱出に近いと出たので、私がするべきは魔王の討伐であるのは変わりなかった。

 つまり私はあの胡散臭い王様に同意することにした。


「分かりました。私は勇者として魔王を討伐します」


「話が早くて助かる!是非一週間後の旅立ちまで私の王宮でゆっくりしていくと良い。どうだ、食事を用意しよう!なんでも言ってくれ!」


 構造上食事をしなくても良いんだけど、まあ確かにこれから何が起きるか分からないからね。

 燃料補給はここで最後かもしれないから、一応オイルだけ要求しておこう。

 私にとっての燃料補給は人間にとっての食事と変わらないので、きっとこれで誤魔化せるハズ…多分。

 しかし伝わるかな?…研究員に正式名称くらい聞いてくればよかった。


「では、燃料オイルをください。出来れば冷たいので」


「燃…料…オイ…ル?と、とにかく料理長に言って作らせよう!イバルディメイド長!部屋に連れて行って差し上げろ」


 王様が大きな声で命令を飛ばすと、布が舞う音がすぐ右隣から聞こえた。

 その方向を見る頃には163cmの私よりも推定20センチ高い、一般的にメイド服と呼ばれる服装をした女性がスラリと立っていた。


「勇者様。ご案内します」


 彼女はスッと手を差し出してきたが、その掌に何か乗っているわけでもない。

 私がその行動を分析している間に彼女は私の手を取った。

 そして引かれるがまま私はあの場を離れて廊下に誘われる。


「私はイバルディです。この王宮でメイドのオサを務めさせていただいております。この一週間、ワタクシめに何なりとお申し付けくださいませ」


「では、魔王はどこに居るのですか?」


「魔王はここから北へ四つの都市を超えた先に城を構えている…と聞きます」


 イバルディは顎に手を当てて少し考えた後に言葉を発した。

 ただ、メイド長だからなのかあまりそういった事情に詳しく無さそうで、私の質問には大抵眉間に皺を寄せてどこかを見るような素振りを見せていた。


「お部屋に到着いたしました。私は廊下に立っていますので、何か欲しいモノがあれば何なりと…」


「はい、ありがとうございます」


 彼女の案内で無事に部屋に着いた私は特にやることも無く部屋を観察する。

 天井には大きなシャンデリアがぶら下がっていて、天井が高い。

 窓は一つだけあり、そこからしか外の様子が見えない。

 試しに外を覗き見てみたが、中庭が広がっているだけで特に情報は取れなかった。

 そして、乏しい景色の代替として様々な絵画が景色の役割を果たしていた。

 あとはベッドが一つと机とソファ。

 これらを見る限り、勇者とはかなり重要な存在であることが良く分かった。


 しばらくそうやって時間を過ごしていると、扉から四回ほど音が鳴った。

 そしてイバルディが片手にお盆を乗せて入って来る。

 ベッドに座っていたので立ち上がり、お盆に乗っている物を覗こうとしたが手の位置が高く、結局彼女が机にそれを置くまでコップの淵しか見えなかった。

 机に置かれたお盆に乗せられたのは半透明な茶色の液体が入ったティーカップとポット、平たく茶色とクリーム色が縁取られ、果物が乗った俗に言うタルトがあった。


「お召し上がりくださいませ」


 私の構造上口に含み咀嚼することは可能だけど、飲み込むことは出来ない。

 それに難しいことに私がこれを食べるまで彼女はここから出ない気だ。

 私が座ったソファの前に座りティーポットを持って微笑んでいる。


「どうかされましたか?」


 やっぱり食べるまで席は離れないっぽい。

 こうなったら羞恥心を利用する他無いなあ。


「あの…私食べるところを見られるのが恥ずかしくて…すみませんが退出していただけませんか?」


 俯きながら肌の彩色機能を弄り、耳の色を変えて赤らめさせながらそう言う。


「あら。ごめんなさい、今すぐに」


 すると即座にポットを机に置いて廊下に出て行った。

 やっぱり羞恥心は人間に対して有効だ。


 再び静まり返った室内で、私はティーカップとポットの中身、そしてタルトを窓から捨てて食器を戻した。


 これならば彼女は私が食べたと思うよね。

 でも、燃料オイルをもらえなかったことは残念。

 まだ私の身体には食べ物からエネルギーを作り出す機構が完成されていないから、この燃料が尽きるか、代替の物が見つからなければ魔王討伐どころの騒ぎじゃない。

 とりあえず魔王の討伐は後にして、今は代替案を見つけなきゃ。

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