第2話
【二】
緊張した面持ちで、女が応接室のソファへと座っていた。隣では一人息子が無邪気におもちゃの飛行機を振り回している。勢い余って飛行機が母親の肩へと激突した。母は顔を顰め、息子を嗜める。
「圭ちゃんったら。気を付けなさいと言ってるでしょう」
「はーい、ごめんなさい」
おもちゃを取り上げるようなことはしない。母は息子が謝ったことに満足し、それ以上のことは言わなかった。
息子は再び飛行機を飛ばすことに夢中になる。
女がその様子をじっと観察していた。これ以上得られるものはないだろうと、別室から応接室へと移動する。これから二人との面談だ。
大体の事情は事前に聞いている。母親は女のいる養護施設の出身で、成人すると同時に行方をくらませた。それから八年、何の音沙汰もなかったのだ。それでも女は、シングルマザーになって途方に暮れる彼女を一旦は受け入れた。
応接室の母子の対面に腰を下ろした女は笑みを作る。
「久しぶりですね」
「は、はい。ご無沙汰してます先生」
「元気そうで何よりです。息子さんのお名前は?」
「圭介といいます。圭ちゃん、先生に挨拶をしてくれる?」
「やだー。ねえ、僕も外で遊びたい」
「ママは先生とお話があるの。もうちょっと待って」
「構いませんよ。圭介くんは皆と仲良く出来ますか?」
「出来るよ」
「では、約束しましょう」
「うん、約束」
既に三十分待たせている。こうなるであろうことを女は予測していた。圭介へとそっと片腕を伸ばす。ピンと立てた小指に圭介が無邪気に小指を絡めて見せた。
指切りげんまんをして、圭介が飛行機片手に飛び出していく。母はその様子を不安そうに見送る。
「心配ですか?」
「あの子、大丈夫でしょうか」
「ええ。約束しましたから、大丈夫でしょう。それよりも貴方です」
「わたしですか?」
「ええ。住み込みを希望していましたが、本当に大丈夫ですか? ルールは守れますか?」
「無理をお願いしたのは此方ですから。ルールは覚えているつもりです」
「いいえ、あのルールは貴方には適応されません。大人には大人のルールがあるんですよ。出来ますね?」
「…………はい。やります」
母親にはここ以外に頼れる場所がない。捨て子だった彼女の唯一の身内とも言える存在は目の前の女だけだ。育ての母に問われ、彼女はルールの確認もせず了承の意思を見せた。
私が守りましょうか? 邑山 葵唯 @nyan0918nyan
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