第23話

スターリング伯爵家の墓地。

スティーブは、庭で摘んできた花を、墓石の上にそっと供えた。


「スターリング伯爵、ドナルド」と墓石には彫られている。

「…大旦那様。あなたは俺に何も言わずにいってしまった…。結局、俺は自分が何者なのか分からないままですよ…」

石の墓標は、何も答えなかった。


「スティーブ、ここにいたのね」

「…リリーさん」

スターリング家の次女は、彼の隣に並んだ。


「…俺は、自分がずっと捨て子だと思っていました。…でも、俺にはずっと家族がいたんですよね」

「…そうね」

スティーブは、リリーに伝えたい事があった。

今までは、自分に経済的な基盤がない事が原因で、口に出せなかった事を。


「リリーさん、俺はリヴァーデイル公爵から、身に余る称号と領地を頂きました」

「そうね。スティーブ・ハンター卿…素敵な名前ね」

リリーは、スティーブが何を言っても「そうね」としか答えなかった。


いつもはっきりした言い方をする彼女は、どこに行ってしまったのか。

その時スティーブは、リリーが彼の言葉を待っている、と気が付いた。


スティーブは、リリーの方を向いて片膝をついた。

「…リリーさん。…俺と結婚して下さい」

リリーは、黙って彼を見下ろしていた。

「…あの、リリーさん…?」


「…遅いわよ、バカッ!」

伯爵令嬢とは思えない悪態が、リリーの美しい唇から飛び出した。

「…えっ、あの…?」

「ホントに…いつまで待たせるのよ?…私ずっと待っていたんだから…!何よ、称号や領地や財産なんて、どうでもいいわよ…っ!」


リリーはそう叫ぶと、片膝をついていたスティーブに抱きついた。

リリーを受け止めたスティーブは、彼女と一緒に地面にひっくり返った。

「…痛た…リリーさん、大丈夫ですか?」

リリーはスティーブの腕の中で、わんわん泣いていた。


「…ああ、そんな泣き方したら、素敵なレディになれませんよ」

スティーブは、ハンカチを出して、リリーの顔を拭いた。

「…ぐすっ、こんな時まで、レディとか言って…スティーブって、ホントに真面目よね」


その時、物陰に隠れていたスターリング家の人々が、わっと飛び出して来た。

「おめでとう、スティーブ、リリー」

「で、結婚式は、いつにするのかしら?そうだ、まずはドレスを注文しないとね」

「な~んだ、私が一番最後になっちゃったわ。長女なのに」

「リリーお姉様、スティーブ、おめでとう~!」


家族に囲まれて、スティーブは驚いていたが、すぐに状況を呑み込んだ。

「…みなさん、隠れて見ていたんですね…」

「だ、だって、スティーブが、ここでプロポーズしなかったら、お姉様が可哀想だと思って…」

「そうよ。スティーブって、変なところで気が弱いから、心配だったのよねえ」


スティーブは、怒っていいのか、笑っていいのか分からなくなった。

彼は、スターリング家の、自分の家族に深々と頭を下げた。


「…皆さん、俺みたいな孤児を、ここまで育ててくれて…受け入れてくれて、ありがとうございます…っ」

スティーブの顏は、流れる涙でぐしゃぐしゃになっていた。


「…もう、スティーブは、ホントに泣き虫ね」

リリーが、ハンカチを差し出した。


スターリング伯爵家の人々は、先祖の墓の前で、不謹慎なくらい泣いたり笑ったりした。







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