第22話

帰宅した公爵は、妻に迎えられた。

「…上手くいきましたか?」

「ああ、始めは抵抗していたが、最後は快く受け取ってくれたよ」

「…そうですか」


公爵夫人は、ほっとしたように微笑んだ。

彼女は、リヴァーデイル公爵の、先妻の親友であった。

アメリアの息子の事は、彼女も常に気にかけていた。


彼女は、滅多に表に出てこない、謎めいた公爵夫人として、社交界では有名だった。

夫も、妻に無理を強いる事は無く、夫婦仲は至って円満である。

今回、息子のローレンスが、継承式を無事に済ませ、次期公爵と認められた。


「…あとは、エマの結婚相手を見つけるだけですね」

「気が早いな、ルイーズ。あの子はまだ20歳だぞ」

「20歳は、立派な女性ですよ。あなたにはまだあの子が、小さな子供に見えているのでしょうけども」


最近エマは、生き生きとして楽しそうである。

(…恋でもしているのかしら?)

娘も、自分と同じように、愛する人と幸せになって欲しい。

今の公爵夫人の望みは、ただそれだけであった。


―リヴァーデイル城の前。

「それじゃあ、私達はこれでおいとまするよ。元気でね、エマさん」

「エリザベスさんも、お元気で…」

エマさんは、ヘイゼルの瞳を潤ませていた。

私達は、ミストレイクのホテルを引き払う事になった。


「せっかくここまで来たんだから、ドラゴンがいると言われている、辺境の地に行ってみない?」

エドワードの提案に、温泉巡りにも飽きてきた私は飛びついた。

そして旅立つ前に、リヴァーデイル公爵家の皆さんに、お別れの挨拶をしに来たのである。

公爵には会えなかったが、代わりにエマさんが迎えてくれた。


彼女は、エドワードを少し離れた場所に連れて行くと、何やらひそひそと話し込んでいた。

「…怪しいですね。あの2人」

アレクシアさんが、ジュリアンに囁いた。

「そうね。まあ、私達はここを去るから、これから先、彼女は障害にはならないわよ」

2人共、どうしてそこで、私を見るのだろうか。


そうしている内に、エディとエマさんが戻って来た。

「お待たせ~。あ、エリー、エマさんが話があるってさ」

エマさんは、言いにくそうな顔をしていた。


「あの、母の事なんですけど…。母は父と結婚した時、社交界でひどい噂を流されて、精神的に参ってしまったんです。それで、人が大勢いる場所に行くと、発作が起こるようになってしまって…この前の失礼な態度をお詫びしたいと、母が言っていました」


あの時、私の顔を見なかったのも、話の途中で席を立ったのも、それが原因だったのか。

「…そうだったんだ…」

私の事を、よく思っていないからだと、勝手に決めつけてしまっていた。


「私もあなたの母上の事を誤解していたよ。申し訳ない」

エマさんは、にっこり笑って私を抱きしめた。


「私、頑張ります。…いつか、エリザベスさんに勝てるように」

「…えっ?」

耳元で小さな声で囁かれたので、一瞬聞き間違いかと思った。


エマさんは、私から離れると「うふふっ」と笑った。


馬車に乗り込んで、私はエディに尋ねた。

「そういえば、さっきエマさんと、何を話していたんだ?」

「えっ?…いや、大した事じゃないよ」

エディの返事に、ジュリアンとアレクシアさんが、顔を見合わせた。

この2人は、エディが何を話したのか、分かっているようだ。


(…私だけ、仲間外れか?)

面白くない気分の私を乗せて、馬車はスターリングに向かって走って行った。


スターリング家では、スティーブさんの話を聞かされた。

「へえ~っ、実の息子かも分からないのに、称号と領地まで与えるなんて、リヴァーデイル公爵は、太っ腹な人だね」

「…そうですね」

「でも、良かったじゃない。これできみも、堂々と結婚する事ができるよね」


エディは、スティーブさんの結婚相手が、既に決まっていると、思っているようだ。

アレクシアさんが、にっこり笑った。

「そうだよ。良かったね、スティーブ」

「…アレクお嬢さん」


アレクシアさんを、無事に家に送り届けたので、私達は次の目的地の、ストーンヘイヴンへと馬車を走らせた。



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