第4話
エドワードは、ため息を吐いた。
「…どこの家も、問題を抱えているよね…」
「お前の家は、特に問題ないじゃないか」
マーベリントン公爵家は、3人の健康な息子がいて、それぞれの領地をよく治めている。
「…うん、まあ、僕らは恵まれている方だろうね」
エドワードは、歯切れの悪い言い方をした。
「とにかく、実際に本人に会ってから、どうするか考えるよ」
「ああ、頼む」
こうして、エドワードは、ミストレイク行きを決めたのであった。
始めは、温泉に入る事が主な目的で、調査は二の次だと思っていた。
しかし、スティーブと会った事で、その予定は変更せざるを得なくなってしまった。
あれだけ、そっくりな顔と体格をしていれば、彼がリヴァーデイル公爵の息子だという事に、誰もが納得するだろう。
逆に、よく今まで誰にも気が付かれなかったものだ。
スターリング伯爵家の領地は、リヴァーデイル公爵領の、目と鼻の先にあるというのに。
まさか、公爵家の跡取りともあろう御方が、毎日野良着を着て畑仕事に精を出しているとは、誰も思いつきもしなかったからだろうが。
エドワードは、スティーブに関して、出来るだけ多くの情報を集めておく必要があった。
「ねえ、アレクシア。きみのお兄さんは、きみ達と全然似てないよね?彼はお父さん似かな?」
「あ、言ってませんでしたっけ?スティーブは、私達の本当の兄じゃないんです」
アレクシアが、深刻な話題をさらっと告げたので、馬車に乗っていた人達は、驚いて目を剥いた。
「えっ、そうなの?」
「はい。赤ん坊の時に、家の前の木の下に置き去りにされていたのを、祖父が保護したんです」
「…そうだったのか。ごめんね、変な事聞いて」
「いいえ。私達は、スティーブを本当の家族だと思っているので、気にしないで下さい」
アレクシアは、にっこり笑った。
「それに、祖父が良く言っていました。スティーブは、もしかしたら、どこかの国の王子様かもしれないぞって」
「へえ、それはどうして?」
「…さあ。子供の頃に、いじめられて帰って来たスティーブを、慰める為に言ったのかもしれないですね。祖父は優しい人でしたから…」
アレクシアは、今は亡き祖父を懐かしむように、遠い目をした。
「それで、お祖父さんは、彼を保護した時に、何か身元の分かる物が、一緒に置いてあった、というような事は、言ってなかった?」
アレクシアは、首を傾げた。
「…う~ん、どうだったかなあ…」
―エディは、アレクシアさんのお兄さんが、気になるようだ。
それにしても、あんなに深刻な話を、まるで世間話のように、さらっと言ってしまって良かったのだろうか。
それに関しては、アレクシアさんはこう言っていた。
「うちの事情は、あの辺りの人ならみんな知っていますから」
スターリング伯爵領の人々は、スティーブさんを、姉妹の実の兄だと思って接しているそうだ。
彼の誠実な人柄と、礼儀正しく真面目な性格は、誰からも好かれていた。
「兄は子供の頃は、よくいじめられていたんです。でも、スティーブは、そういう奴らを実力で見返していました」
彼は領内で、最も成績優秀で、国の留学特待生にまで、選ばれた事があるそうだ。
「…でも、スティーブは、畑仕事があるからって、断っちゃったんですよね…」
自分は、養子だからその資格はない、というのが彼の言い分だそうだ。
「…え~っ、もったいないなあ。その気になれば、スティーブ君、王立学院にも入学できたんじゃないの?」
エディは、心底残念そうな顔をしていた。
アレクシアさんは、ため息を吐いた。
「…スティーブは、いつもそういう好機が巡って来ても、辞退してしまうんです。
きっと、これ以上、うちに負担をかけてはいけない、と思っているんでしょうね」
スティーブさんは、いくら養子とはいえ、スターリング家に気を使いすぎではないだろうか。
「スティーブは、とにかく義理堅いんです。子供の頃は、王国の騎士様に憧れていて…主君、つまりうちの父と祖父ですね、に対する忠誠心は絶対に揺るがないんです」
「…古風だねえ。いまどき珍しいタイプだな」
エディが、感心した風に言った。
アレクシアさんは、お兄さんの話を、誰かに聞いてもらいたかったらしい。
「…あら、私ひとりで喋ってましたね。愚痴を聞いて頂いて、ありがとうございます。こんな事、お姉様達としか話せなくて」
エディが、アレクシアさんに笑いかけた。
「いいよ。おかげで面白い話が聞けたしね」
「アレクシアは、ブラコンだね」
エディにからかわれて、アレクシアさんは、顔を赤くした。
「そ、そうですか?…確かに子供の頃は、スティーブにプロポーズした事もあったけど…あわわわ」
慌てて口を押えるアレクシアさんを見て、馬車の中の人達は、どっと笑いだした。
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