第3話
エディは、アレクシアさんのお兄さんに、声をかけた。
「きみが、スティーブ君だね」
「そうです。お初にお目にかかります、ブライトン子爵様」
スティーブさんは、きっちり45度のお辞儀をした。
彼は、スターリング家の姉妹達と、まったく似ていなかった。
くすんだ金髪とグレーの瞳、鋭角的な顔立ちに、日に焼けたがっしりとした体格。
その長身から発せられる、謎の威圧感と迫力は、どう見ても、20代前半の若者とは思えなかった。
エディは、スティーブさんの顔を、じっと見つめている。
スティーブさんは、彼があまりにも自分の顔を見ている事を、不審に思ったようだ。
「…あの、子爵様?」
エディは、彼の声ではっと我に返った。
「…ああ、すまないね。君とどこかで会ったような気がしたんだけど…気のせいかな」
「…そうですか」
彼はそう答えると、アレクシアさんの荷物を、待っていた馬車に積み込み始めた。
「アレクお嬢さん、荷物はこれで全部ですか?」
「うん。ありがとう、スティーブ」
―アレクお嬢さん?妹じゃないのか?
普通のきょうだいなら、自分の妹を、お嬢さんと呼んだりはしないだろう。
私の疑問をよそに、私達を乗せた馬車は、ゆっくりと走り始めた。
「行ってらっしゃ~い、気を付けてね~っ」
「お土産、期待してるわよ~」
「アレクお嬢さん、お腹を出して寝ちゃ駄目ですよ~っ!」
最後の声に、アレクシアさんの顔が、また赤くなった。
「…もう、スティーブったら…!」
スターリング家のきょうだいの、仲の良さを見て、私は微笑ましい気分になった。
「アレクシアさんが羨ましいな…」
「え、そうですか?」
「うん…」
私と妹のシャーロットの仲は、昔からお世辞にも良好とは言えなかった。
しかも、あんな事件があってからは、更に気まずくなってしまった。
いずれ時が経てば、私達姉妹も、アレクシアさん達の様に、仲良くなれるだろうか。
私は、アレクシアさんと話しながら、そんな事を考えていた。
―5日前。
「…スターリング家の長男が、リヴァーデイル公爵にそっくりだって?」
「ああ、初めて会った時、どこかで会ったような気がしたんだが…今回の会議で公爵に会って、はっきりと確信した」
あの会議の後すぐに、レイは、エドワードのもとに飛んできたのだ。
「…でも、他人の空似って事もあり得るよね?」
「スターリングはリヴァーデイルと、湖を挟んだ隣の領地だ。赤ん坊をさらった犯人は、一時的に身を隠す為の場所として、スターリングを選んだのだろう」
犯人は、遠くに逃亡したと見せかけて、実は意外なほど近くに隠れていたのだ。
25年前の、リヴァーデイル公爵跡継ぎ誘拐事件は、当時、世間を大きく騒がせた。
「僕達はまだ子供だったから、当時の騒ぎは記憶にないけどね」
「普通なら、犯人から何かの要求が来るはずだ。しかし、公爵家には何の連絡もなかったそうだ」
エドワードは、友人の言葉に、眉をひそめた。
「…どういう事?」
レイは首を振った。
「…さあな。誘拐犯の間で、仲間割れがあったんかもしれん。ごろつきの寄せ集めには、よくある事だ」
「…でもさ、犯人は、警備の厳重なリヴァーデイル城に、侵入しているんだよ?ただのごろつきの集まりに、そんな事ができるかな?」
「実行犯は、金で雇われたのかもしれないな。彼は自分のやった事が恐ろしくなり、お荷物になった赤ん坊を、どこかに捨てようとした」
「だったら始めから、誘拐なんてしなけなければいいのに。…まったく、面倒事を増やさないで欲しいよ」
エドワードは、ため息を吐いた。
「とにかく、犯人は赤ん坊を、スターリング家に置いて行った。あの家の誰かが、見つけてくれるようにな」
「まあ、家の前に捨てられた赤ん坊を、見捨てる人達ではないよねえ」
エドワードもレイも、スターリング家の人々が、お人よしな事を知っていた。
「でも、仮に、彼がリヴァーデイル公爵の息子だったとしても、それを証明するものが何も無ければ、向こうには相手にされないよね」
レイはうなずいた。
「…問題はそこなんだ」
「しかし、あれだけ公爵に似ていると、それに気が付く者も、当然出て来るぞ。
リヴァーデイル家を乗っ取ろうとして、何も知らない彼を、正当な跡継ぎとして、担ぎ上げるかもしれない。そうなる前に、何かしらの手は打っておきたい」
スティーブは、リヴァーデイル公爵の実の息子なのか。
エドワードの今回の調査の目的は、それであった。
「…俺としては、彼がただの平民である事を願っている。もし彼が、公爵の実子だったら、両方の家族が不幸になるだけだからな」
レイは別れ際に、そう言った。
リヴァーデイル公爵は、先妻が亡くなってしばらく経ってから、某子爵の娘と再婚した。
半年前、後妻の長男が、次期公爵の継承の儀式を行う事が決定した。
式は、あと10日ほどで行われる予定である。
「息子はペンリス伯爵だよね…特に悪い噂は聞かないけど」
「彼は学業優秀で、王立学院を首席で卒業してる」
エドワードは、びっくりした顔をした。
「ホントに?すごいじゃないか」
王立学院は、国内で最も優秀な学生が集まる機関である。
他国からの留学生も多く、ここを卒業した学生は、国の重要な地位につく事が多かった。
授業料が高額な為、貴族の子弟が多いのが現実だったが、一応平民にもその門は開かれている。
「そんな優秀な息子なら、公爵は安心できるんじゃないの?」
「…それがな、ペンリス伯爵は、気が弱くて、リヴァーデイル公爵なんて大任は務まらないんじゃないか、というのが家臣達の意見なんだ」
公爵ほどの大貴族ともなれば、一国の主も同然である。
それなりの政治力と、統率力が求められるのは、当然であった。
「リヴァーデイル公爵にとっては、頭の痛い問題だろうな」
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