第四十六章 ― 神さえ辿り着けぬ場所へ
沈黙は、去らなかった。
それは、落ち着いた。
燃え尽きた後の灰のように。
形すら思い出せないほど、激しく燃えた後の——。
アレン・ノクティルは、
かつて天の裁きが行われていた場所の中心に、独り立っていた。
玉座はない。
観測者もいない。
永遠を装った法則も、もう存在しない。
残っているのは——
亀裂だけだった。
空は、まだ壊れていた。
だが今は、ゆっくりと。
怒りではなく、
疲労のように。
もう“完全”でいる力が残っていないかのように。
アレンの再生は止まっていた。
治ったからではない。
生かそうとする意思そのものが、
消えたからだ。
彼は自分の手を見下ろした。
震えている。
「……情けねぇな」
指先から血が滴り落ち、
地面に触れる前に蒸発した。
世界ですら、彼の残骸を抱えるのに疲れたかのようだった。
一歩、踏み出そうとする。
足が崩れた。
アレンは前に倒れ、
片腕でかろうじて身体を支えた。
骨に走る鈍い衝撃——
神の反応も、警告もない。
ただの、痛み。
「……これで終わりか」
答えはない。
記録核もない。
エコーの反応もない。
冷笑的な導きも、もう聞こえない。
堕ちてから初めて——
彼は本当に、独りだった。
アレンは弱く笑った。
「……だろうな」
仰向けになり、
壊れた空を見上げる。
「お前、未完の物語が嫌いだったよな」
記憶が、勝手に浮かび上がる。
——
季節の回廊の縁に立つルネスラ。
銀の髪が風に揺れていた。
「ねえ」と彼女は言った。
「永遠が終わった後って、どうなると思う?」
アレンは鼻で笑った。
「馬鹿な質問だ」
彼女は微笑む。
「答えてない」
「“後”なんてねぇんだよ」
「永遠ってのは、そういうもんだ」
彼女は振り返り、
静かで、悲しくて、優しすぎる瞳で彼を見た。
「……じゃあ、約束して」
アレンは眉をひそめた。
「何を?」
「もし永遠が壊れたら——」
彼女は一歩近づき、胸に手を置いた。
「——生き残ることしか知らない存在には、ならないで」
——
アレンは目を強く閉じた。
「……やったつもりだ」
胸の奥が、おかしい。
痛みじゃない。
空洞だった。
空の亀裂が、さらに広がる。
光が溢れ出す。
神性でも、聖性でもない。
温かい。
それが肌に触れる。
裁かない。
測らない。
誘う。
「……ルネスラ?」
考える前に、名前が零れた。
希望もなく。
期待もなく。
光が集まる。
世界が、剥がれていく。
そして、彼女の死以来初めて——
アレンは、
“落ちる”のではなく、
“前へ引かれる”感覚を知った。
身体が崩れ始める。
激しくもなく、
痛みもなく。
陽光に溶ける雪のように。
「……嘘ついたな」
疲れた笑みが、唇に浮かぶ。
「まだ、お前を追ってる」
最後に消えたのは——
鼓動だった。
そして、
砕けた空の向こう側で、
誰かが、
待っていた。
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