第44章 ― 空が、先に命乞いをした
空が、悲鳴を上げた。
比喩じゃない。
限界を超えたガラスのように、
はっきりと――割れた。
アレン・ノクティルは、
崩壊の中心に立っていた。
背を丸め、荒い呼吸、
制御を失ったエコーが暴走している。
身体は、限界だった。
否定の余地はない。
血が溢れ、
神石を濡らす。
だが大地は吸わない。
世界ですら、
彼を抱えるのを拒んでいるかのように。
残る神は二体。
もはや浮いていない。
砕けた地に立ち、
権能の翼は破れ、揺らぎ、
その顔には――恐怖があった。
「お前は、自分を燃やしている」
一体が歪んだ声で言う。
「この器では、その共鳴は保てない」
アレンは笑った。
壊れた。
濡れた。
醜い笑い。
「上等だ」
よろめきながら、前へ。
一歩ごとに、何かを落とす。
血。
骨片。
もう要らない自分。
「分かってないと思ってるのか」
激しく咳き込みながら言う。
「引き裂かれてる感覚が、分からないと?」
視界が二重になる。
一瞬、景色が変わった。
—
祭り。
四季の灯りが宙を舞い、
春の花弁、
夏の温もり。
隣にはルネスラ。
髪を下ろし、目を輝かせている。
「つまらなそうな顔」
彼女がからかう。
「人混みが嫌いなんだ」
それでも彼女は笑った。
そして、手を取った。
それだけで。
音が消え、
恐怖が消えた。
「ずっと居なくていい」
優しい声。
「でも今は……私と一緒にいて」
彼は、強く握り返した。
「……ああ」
—
記憶が砕ける。
神権の刃が肩を貫いた。
獣のような咆哮。
勢いを利用し、
引き裂き、
再び肉が裂ける感触。
アレンは刃を奪い返し、
神の胸へ叩き込んだ。
綺麗じゃない。
慈悲もない。
光が、内臓のように溢れる。
「約束って言葉を覚えてるか」
唸るように、
引き寄せながら。
「俺から何を奪ったか――覚えてるか!」
神は、掌の中で崩壊した。
残り、一体。
最後の神は――下がった。
本当に、下がった。
「やめろ!」
叫び声。
「もう行き過ぎだ!」
アレンは首を傾げる。
血が顔を伝い、
片目を覆う。
「行き過ぎ?」
また、笑う。
今度は、はっきりと。
「無実の女神を処刑した」
「魂を消した」
「俺だけを残して、記憶させた」
震える手を上げる。
エコーが悲鳴を上げ、
現実が内側に歪む。
「もう“先”なんて無い」
空が、さらに裂ける。
神は逃げようとした。
アレンが消える。
次の瞬間、
目の前。
拳が顔面を貫いた。
光の爆発が地平線を引き裂く。
輝きが消えた時――
残っていたのは、
アレンだけ。
立っている。
かろうじて。
膝が崩れ、
片膝をつく。
激しく咳き込み、
エコーが、内側へ沈んでいく。
空が震えた。
抵抗じゃない。
恐怖だ。
「……ルネスラ」
彼は、再び囁く。
「約束は守った」
裂け目の向こうで――
何か古い存在が、
ずっと見ていた。
そして今、
初めて――笑うのをやめた。
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